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“ガラッ! ガラガラガラッ!”
敷居の滑りが悪いのか引き戸は予想以上に大きな音を立てた。
「──ごめんくださぁい。ひゃっ!」
玄関に入りまず驚かされたのは備え付けの下駄箱の上に飾られた招き猫の数だ。大きい招き猫から小さい招き猫──かなりのラインナップである。ここの店主は相当な招き猫マニアかもしくはお客が来なさすぎて困っているかのどちらかなのだろう。
少し待ってみたが誰も出迎えてくれないのでもう一度聞こえるように「ごめんください」と言ってみるがやはり誰からの返事も無い。
仕方ないので帰ろうかと思った時──優しいお味噌汁の香りがふわりふわりと漂ってきた。食欲をそそる香りに思わず目を瞑ってしまう。
「やっぱり営業してるんだ」
どうやらこの店の店主は耳が遠いかもしくは接客中で私の声が聞こえていないのかもしれない。私は「よし」と気合いを入れて一歩前へと踏み出した。
「お邪魔しまぁす……」
古民家の中の作りは昔ながらの平屋。
靴を脱ぎ上がり框をあがって廊下を進む。まっすぐに続く廊下の左右の襖は閉じられているので匂いは1番奥の部屋から漂っているに違いない。
廊下の終着地点へ到着すると紺と白で絞り染めされた暖簾が下げられている。
「あのぅ……まだ営業中ですか?」
声をかけながら暖簾をくぐり中へ入ってみると古民家の中とは思えぬ光景が目に飛び込んできたのだった。
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