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「な、んですか?」
ドキドキしてるのは、急に名前を呼ばれたから。
だって、別になんとも思ってないもの。
あれ?あたしはなんて呼べばいい?
「どうした?」
「あ、イエ、なんでもありません」
会場内にいるせいか、普段はぜったい見ない心配したような表情。
だけど目は、ちゃんとしろと言っている。
そういえば、どんな嫁を演じればいいか聞いてない。
まぁ、いっか。
「具合悪くなったら言えよ」
「大丈夫」
そして、さすがに敬語はダメだと思う。
イヤ、いろんな夫婦の形があるとは思うけど。
なんか、このヒトに敬語はイヤだ。
「それよりも、こちらのキレイな方は?」
気づけば目の前に、眼光鋭いキレイなオネエサマがいて。
そっちにも驚いたわ。
めっちゃ睨まれてるんだもん。
「あー…誰だっけ」
このオネエサマの態度からして、ぜったい面識あるんだと思うけど。
主任は全く思い出そうともしてない。
それどころか、腰に腕を回してきて引き寄せられる。
…あとで文句言ってやる!
驚いて声を出さなかったことを褒めてもらわなきゃ。
「申し訳ありません、今日は妻と来ておりますので」
ニコニコとした笑顔が、あたしには恐怖を感じた。
セリフは穏やかで一見優しく笑っているように見えるけれど。
その目の奥は笑ってなんかいない。
この笑顔の時は逆らっちゃいけないんだ。
教育係だった頃のいらぬ知恵。
「え?妻?」
オネエサマ、引きつった口元がキレイなお顔を台無しにしてますよ。
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