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「…イヤ、やっぱムリです!」
「ここまで来て往生際が悪い」
なんだ?
この高級ホテル、場違い感が半端ない。
黒のシック?って言うの?
ドレスを身に纏う自分が自分じゃないみたい。
「なんなんですか、なんであたしなんですか」
「一宿一飯の礼」
「イヤ、それは別で返しますから」
「あ、指輪」
……はぁ?
今日一日だけの相手に指輪?
「サイズ調整できるヤツ」
「なんだか、スッゴい嬉しそうですね」
指輪を渡してくる主任の珍しい笑顔に、ついつい見惚れてしまう。
年齢差があまりなければ、恋愛対象になってたかも。
「イヤ〜、これで俺もお偉い役員の娘はいらんか攻撃から解放される」
「あ、そっち」
「ん?なんだと思ってたんだ?」
「だって、いきなり嫁とか言うから」
なんだって言うんだろう?
「ふーん?まぁ、行くぞ。笑顔振りまけよ」
なんだかホントに嬉しそうで、今日だけなら仕方ないと諦めのため息を一つ。
というか、そういうことならちゃんと説明してほしかったな。
この一週間、仕事があまり手につかなくて、主任のせいなのにめっちゃ怒られたし。
イヤ、だからといって、説明されたとしても納得はいかない。
あたしじゃなくても、もっと適したヒトがいるハズ。
「桃?」
ビックリしたのか、ドキッとしたのかわからない。
確かに上の空だったけど、急に名前を呼ばれて肩が跳ねた。
主任、あたしの名前知ってたんですね。
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