彼等はまだ青春の狭間にいる。

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「分かった。莉乃がそうしたいのならそうすれば良い」 「ありがとう!」 「俺も大会に向けて練習頑張るから莉乃も頑張れよ、主演女優」 「おぅ!」 泣かないように今日は一日、笑顔で。 いつでも何でも話せる幼馴染な島谷莉乃を彼は望んでいるから。 「莉乃、タクマくんの事……大丈夫?」 「いつか、こんな日が来るの知ってたし。意外と私、大丈夫だった! まぁ、あんな可愛い子じゃあ敵わないよねー!」 「うちらが男紹介してやるから!」 「ありがとう! けど、今は部活に集中したいから! 人魚姫役ー!」 「莉乃が人魚姫役とか超意外!」 「話聞いた時、笑ったわ」 「うるせぇわ!」 昼休みになると、いつものように友達と笑いながら語り続ける。大丈夫、ちゃんと笑える。 私、ちゃんと過ごせてる、今日という一日を。 「莉乃、部活ー?」 「うん! 姫になってまいる!」 「頑張れ、バカ姫ー!」 「うるさいよっ!」 一人になると、途端に不安になる。 だめだ、いつタクマに見られるか分からない。 泣いたらだめ、泣いたら! 「島谷、部活行くぞ」 「えっ? 部長、先に行ったんじゃ」 「飲み物、買いに行ってたんだ」 「うわ、まーたブラックコーヒーだよ」 「好きなんだよ」 「部長ってさ、中身リーマンだよね」 「は?」 「やたら口うるさい会社の部長みたいな! 中身おっさんでしょ?」 「まだ18だっての」 「眼鏡が老けて見える!」 「悪かったな、老け顔で」 良かった、部長が隣に居れば何とか自分を保っていられる。 「はぁ、私も喉乾いた。飲み物無くなったわ、最近暑過ぎて」 「ほら」 「へ?」 私は部長にペットボトルを手渡される。 「オレンジティー? しかも、私の好きなキャラとのコラボデザインボトル!」 「ちっとは元気になって貰わないとな」 「あ、ありがと……」 大好きな購買の唐揚げサンドも、お弁当も、毎日買うお茶も味がよく分からなくて。 だけど、そのオレンジティーだけは美味しく感じた。 ……変なの。 「王子様にもう一度会えるのなら私は何だってするわ。だから、魔女のおばあさんお願い。私を人間にして」 「なんか、莉乃……いつもと芝居の感じが違う?」 「なんだかやたら悲しそうだな」 人魚姫を演じれば演じる程、まさに今の自分に重なって苦しくなる。 だけど、私はやり遂げたかった。 自分のこの苦しい思いは芝居にぶつける事にした。
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