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「良いか。海の上の世界を見に行くのは構わないが、絶対に人間に姿を見られてはならない。人間は私達に危害を加えてくる危険性があるからな」
「大丈夫よ、お父様。私、かくれんぼは得意なの」
部長と同じシーンの時はなんだかほっとする。
私を主役に選んでくれた部長をがっかりさせたくない、高校生最後の公演はしっかりと成功させたい。
私個人の感情でこの劇を台無しになんかさせない。
「はぁ、今日も遅くまで残って練習しちゃったね、部長」
「俺は台詞が少ない役だから殆ど演出家に近い事をしてたが」
「部長ってさ、お芝居関係の仕事目指してんの?」
「進路調査票には法学部と書いた」
「えーっ! もったいな! 部内で一番実力あんのにっ」
「親が許さないからな」
今日も部長と一緒に帰る。
「そっかぁ。私は適当に決めちゃったから、選択肢がある部長羨ましいけどな」
「好きな事を仕事に出来る人間は早々いない」
「そうかもだけど……」
親の為に我慢するなんて。
「俺も島谷も我慢する人生だな」
「えっ?」
「今日一日、よく頑張ったよ。島谷は」
部長は私の頭を撫でる。
「も、もう! そんな事言われたら我慢、出来なくなっちゃうから!」
「我慢しなくて良いって、もう」
「昨日散々泣いたくせにって呆れない?」
「それだけ一人の誰かを想ってたって事だろ」
「部長ってさ、やっぱりめっちゃ良い奴!」
「お前くらいだな、そんな事言うのは」
「私、部長に救われまくりだね!」
友達の前だと無理して明るく振る舞っちゃったけど、部長の前ではつい情け無い私になっちゃう。
「俺はいつも明るい島谷でいて欲しいだけ」
「いつも明るい私……か」
戻れるかな。
今しばらくは難しいや。
帰宅すると、私はゴミ袋を持って何もかもを捨て始めた。
タクマに貰った物全部を。
「やっぱり宝物になんかしちゃいけなかったんだ」
この間貰ったペットボトルもゴミ袋に捨てて行く。
彼女はこれから可愛いアクセサリーを貰う事だって出来る。
私はこんなペットボトルなんかを大事にしていたなんて情け無い。
くだらない、バカみたい!
全て捨てたらすっきりすると思ったけど、無理だった。
何でタクマんち、私の隣の家なんだよ。
「莉乃ー? ご飯はー?」
「要らないっ」
帰って部屋に一人になると、どうしようもない痛みが襲ってくる。
こんなに泣いたってどうにもならない。
私の想いは伝える事もなく、恋は突然終わるんだ。
こんなに近いと思ってたのに遠かった。
私の一方通行の恋だった。
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