彼等はまだ青春の狭間にいる。

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「あ!」 「莉乃、どうしたー?」 「部長が好きなブラックコーヒーだ。買ってってあげようっと」 「本当莉乃って桐谷くんと仲良いねー!」 「んー……私は演劇部の副部長だし、相方って感じがあるんだよね」 「芸人かよ」 一緒にいて落ち着くし、何でも話せるし。 「けど、桐谷くん眼鏡外したのびっくりだわ」 「部長は眼鏡外したらなかなかの良い男なのだよ!」 「何で莉乃が偉そうなわけー?」 「私の相方だからな!」 「もしかして、莉乃….…桐谷くんが気になるとか?」 「へ?」 「やたら夏期講習でも話してたし」 「そ、そんなんじゃないからっ」 そんなんじゃ……無いよね? 「たっだいまー! はい、部長にあげるっ」 「あ、これ……俺が好きなやつ」 「さ、さっきの紅茶のお礼っ」 「ありがとうな」 友達が変な事言うからか飲み物を渡すだけで変に意識してしまう。 「じゃあ、島谷は友達んとこ戻ります!」 「ああ」 タクマを忘れきっていないのに、他に気になる人がいるなんて……無いから! 「じゃあね!」 「また明日ー!」 放課後になると、今日も部活へ。 「部長! 先行かないでよねっ」 先に向かう部長の背中を私は叩く。 「あ、ああ」 「学園祭が終わったら、部活引退だね。あと数週間しか無いじゃん」 「本格的に受験生になるな」 「ねぇ、最後の学園祭なのにメインやらなくて良かったの?」 「ん?」 「人魚姫の父親役って出番少ないし。王子のがよっぽど出番……」 「物語の中でも、見守る役が良かったから」 「見守る役?」 「島谷を傷つける役ってきついから」 何でさらっとドキッとする発言するかな。 「部長はストイックだからそういう言葉出たの意外」 「だから、俺は役者には向いてない。自分の感情に振り回される」 「部長なかなか上手いと思うけど?」 「まだまだだ」 「そっか。部長は物語の中でも私を見守るポジなわけなんだね」 「でも、今は見守るだけじゃ嫌だって思う」 部長の真っ直ぐな瞳に私はまたもドキッとする。 私の心の中にちょっとずつ新しい何かが芽生え始めているのを感じた。 ちょっとずつ、前へ前へと進んで行く。
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