彼等はまだ青春の狭間にいる。

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「島谷、どうした? 先程からやたら噛みまくりだぞ!」 「ご、ごめん。部長……」 放課後になると、私は早目に部活に行って部長と練習をする。 「はぁ、主演がそんなんでどうする」 「人魚姫の気持ちを考えたら辛くなって」 「は?」 「こんなん自己犠牲じゃん。早く王子を助けたのは私だよって言えば話は変わったかもしれないんだよ?」 「……俺もこの話はあまり好きではない」 「部長がそれ言う?」 「ずっと想っているのに報われない姫は可哀想だ」 「部長ってやっぱり良い奴だよね」 私は人魚姫と一緒だ。 結局見ているだけで、自らを傷つける真似をしてしまう。 「俺はハッピーエンドの方が好きなだけだ」 「多数決で決まったから仕方なくこれにしたんだね」 「まぁ、そんなとこだ」 「けど、高校生最後の学園祭公演だから部長はメインである王子役やると思ってた」 「わざわざ自分が嫌いなキャラクターを演じるのは嫌だっただけだ。俺は出来れば姫の味方側でありたい」 「やっぱり良い奴だね」 このタイミングで人魚姫役とか最悪。ついてないにも程がある。 最後の公演にして、ようやく得た主役なのに。 結局、本調子が出ないまま練習を終えてしまった。 「ごめん、部長」 「はぁ、まだ学園祭まで時間はあるし。夏休みにも練習時間をたくさん設ければ良い」 「そうする」 「……島谷」 「ん?」 「部活以外では無理に演じなくて良いんだからな」 「は? 私がいつ演じたし! 部長の前では自然体だし!」 「俺の前での話をしているわけではない」 「えっ……」 何なの、急に。 「嘘は時に自分を苦しめるから」 「っ……」 「島谷、俺は……」 部長が言いかけると、突然私のスマホが鳴った。
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