彼等はまだ青春の狭間にいる。

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「ごめん、電話っ」 私は慌てて電話に出る。 「あ、莉乃? 部活終わった?」 「あ、タクマ。うん、今ちょうど部活終わったとこ」 「良かった! 実はさ……今日、告られて付き合う事になった!」 「え……」 「今度改めて莉乃に彼女紹介するな!」 恐れていた日は突然やって来る。 私の心の準備なんか待ってはくれない。 「良かったじゃーん! びっくりしちゃった。おめでとう、タクマ!」 演じるのだけは3年間で部活で磨いてきたから大丈夫……大丈夫なの。 「ありがとう! すげぇ嬉しい!」 あぁ、結局……人魚姫と同じだ。 伝えられないまま、終わらせるんだ。 「ごめん、私……そろそろ」 「ああ、また明日なー!」 「うんっ」 自分の気持ちに嘘をついて明るく振る舞う事しか出来ない自分が情け無い。 「島谷」 「ごめん、部長! 私、体育館に忘れ物しちゃった! 先帰ってて」 私は部長に笑顔でそう言うと、慌てて体育館へ戻る。 泣くのは一人になってから。 明日からたくさん頑張って無理して明るく振る舞わなきゃいけなくなるから。 だから、今のうちにたくさん泣かないと。 明日苦しくなるのは私だから。 だから……今は一人で18年間分の想いを吐き出すの。たくさん泣いて泣いて……。 島谷莉乃はいつも明るいタクマの味方の幼馴染だから。 泣いてばかりの私は私らしくなんてないから。 こんなに声を上げて泣いたのは久しぶりだった。 好きだって結局言えなかった。 きっとずっとこれからも、言えない。 だって、タクマからしたら私は恋愛対象じゃないの……ずっと分かっていた。 「部長……帰ったよね?」 「島谷っ」 「えっ! 何で……」 散々泣いた後、校門前に行くと部長が待っていた。 「練習時間長引かせて遅くなったのは俺のせいだからな。夜間は危険だし、送る」 「先に帰ってって言ったじゃん」 「それでも、心配だったから」 どうしよう、泣き腫らした顔今してるのに。 「部長さ、良い奴なのに何でそれ私にしか使えないかなぁ。もっと良い奴感出したら部員達に好かれると思うよ」 「島谷が分かってくれるなら良い、別に」 「何それっ」 「島谷だって俺が知ってる中じゃ一番良い奴だ」 「え?」 「だから、その……島谷を魅力的に思う男子はいくらでもいるというか……」 「無理してフォローしなくて良いから。やっぱ分かるか。私が振られたって」 「島谷とはずっと同じクラスで同じ部活だからな」 「18年間ずっと一緒にいたあいつより部長のが理解してるんだ、私の事」 案外そんなもんか。
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