彼等はまだ青春の狭間にいる。

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「島谷はすぐ無理をするからな。部長として相方である副部長の事をよく見ているのは当然だ」 「そっか。さっすが部長。はぁ、私の18年間は何だったんだろう」 「けど、それだけずっと一人の誰かを想える島谷はすごいと思う」 「えっ?」 「俺は恋愛なんて興味も無かったから」 「そんな感じだよね」 「でも、今は違う」 「へぇ、部長にもいよいよそういうお相手が」 意外だ。 「だから、いっぱい我慢して気持ち伝えられずにいたお前の気持ち少し分かってきた」 「部長……」 「お前が演目変えたいのなら人魚姫以外をやれば良い。部長権限で何とかやれる」 「えっ」 「どんなに辛くても芝居をしなければいけないのが主演女優だが、俺は部長ではなく友人としてお前が苦しむ役を続行させるという判断が出来ない」 友人って思ってくれてたんだ。 「ありがとう。けど、私はやるよ! 私一人の都合で皆を巻き込みたくないし、それに……失恋したての今だからこそ人魚姫の気持ちに寄り添って芝居が出来る。だから、経験を活かして役に励むよ」 「島谷……」 「部長がせっかく選んでくれた役だからちゃんと最後まで向き合いたい。それはそれだから」 きっと自分に重ねてたくさんたくさん辛くなるに違いない。だけど、私は演劇が好き。 だから、この部活を選んだ。 自分が選択した以上、引退する瞬間まで責任を持って部活動に励まなきゃ。 「莉乃、おはようっ」 「あ、タクマ。おはよう……」 「昨日すぐ電話切りやがるんだから。もっと語りたい事あったのに」 「ごめーん! 練習疲れちゃってさ」 翌日、教室に着くとタクマが笑顔で私の元へ。 タクマの笑顔が大好きだったのに、今は見るのが辛い。 笑わないと、明るくしなきゃ、ちゃんと気持ち我慢しなきゃ。 「タクマくん、お待たせっ」 「おぅ。莉乃、紹介するな。俺の彼女のユカ」 「は、はじめましてー! 島谷莉乃ですっ。宜しくね、ユカちゃん」 「宜しくね! タクマくんからは話よく聞いてるよ! ずっと話してみたいと思ってたんだ!」 笑顔でタクマに何の恋愛感情も無い良い幼馴染を振る舞う。だめだ、頑張らないと。 本当は逃げ出したくて、逃げ出したくてたまらないけど。 「島谷」 「わ! ぶ、部長?」 いきなり部長が話に入ってきた。 「練習、付き合え」 「へ?」 「ほら、早くっ」 「ま、待ってってば!」 助かったけど、急にどうしたんだろ?
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