17、葉陰の緑

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17、葉陰の緑

「コウ! 悪ィが話がある!」  腰の裏を抱いたまま、突然声を張るアギレオに目を瞠る。誰かいるのか、どこに、と見回すのに、フッと笑う吐息を降らされ、目を瞠ったままでその顔を見つめ。 「ここにゃいねえよ。遠かったら来るまで少しかかるだろうからな。気長に待て」  正直、全くわけが分からず、頷きすらしそびれる。はたと、僅かに身を捩って腕から逃れ。ン?と、こちらがおかしなことでもしたかのように眉を上げる顔に、頭を振る。 「身を寄せたままでなくとも話せるだろう。なあ、頭領が馬の世話をするというのは珍しいな?」  ちょっと待てよ、と呆れたように笑われて、なんだ?と首を捻る。 「なに当たり前に人を質問攻めにしてんだ」  身の両脇で前柵に手を突いて閉じ込められ、ほんの少しうろたえる。動揺が顔に浮かばぬようにと唇を引き結び。 「尋ねたいことは色々あるな」 「そりゃ高くつくぜ」  グッと少し詰まり、近付く顔を見上げる眉が寄る。 「…ここでは駄目だ」  ふゥン?と、首を傾いで見下ろしてくる顔が忌々しい。近付いてくる顔に手を上げ、掌で口を覆って塞いでやる。すぐに手首を掴んで退けられ、眉を寄せ。 「スリオンに頭の毛を全部毟らせるぞ」  ははっと声を立てて笑いながら離される手に、腹の内で息を抜く。 「そりゃ堪んねえな。どこならいいんだ」 「どこって…」  どことはどういう意味だ、と、目眩のしそうな額を押さえ。片腕でまた腰を抱き寄せられて、ビクリと小さく背が伸びる。 「嫌なのか?」  思いがけぬ問いかけの意味と答えを考えかけて、ゾクリと背筋が震える。アギレオの口から次の言葉が続かず、答えを求められているのだと理解する。 「…なんて嫌なやつなんだ…。……。…そうは言っていない…」  口に出してから、嫌だと答えても結果は同じだったに違いないと気づき、悔やむ。少し耳が、熱い。  その耳に唇を触れられ、身が竦む。 「どこならいい。答えろよ、ハル」  低い囁きに顔を上げられぬ心地になるのが、口惜しい。 「…お前の家の寝台では駄目なのか…」 「それ以外なら?」  即答、否、即座の却下に腹の内で唸り。 「……。人が来ないところなら……」  よし分かった、と、手首を掴んで手を引かれ、ああ…と、己を呪う心持ちで天を仰ぎながら厩舎を後にする。もう行くのかと言わんばかりに蹄を鳴らす音が、少し耳に残った。  入ってきたのと逆に厩舎を抜ければ、砦を隠す森は目の前で。ガサと葉を踏んで足を踏み入れるアギレオの背を見ながら、困る。  木立に隠れるような場所で足を止め、早速脱いでしまう上衣を地面に広げて放り出す背を見れば、少し眉が下がってしまう。  振り返るのを待たず、自分も着ているものを脱いで地に落とし、おっ、お?と上がる声の方へ目を向けられない。下履きまで全て脱いで裸足で草を踏み、顔を上げないままで、身を寄せて彼の腰帯に手を伸ばし、解く。 「なんだなんだ。なんの罠だ」  笑う声を追って顔をは上げず、頭を振る。木々の隙間から零れるような入り日の色に、見惚れる余裕も、ない。 「夜の食事に顔を出すと言ってある。…早く、」 「急ぐのに素っ裸になる必要があんのか?」  伸びてくる手が頬に触れて首筋へ撫で、肩先を丸めるように擦ってから、背へと辿られて、息が零れる。  笑っている声に小さく首を横に振りながら、下衣を寛げ、指を掛けて下履きごと下げてしまう。 「汚れるだろう…」  土と緑の匂いには開放感があって。けれどそれだけでは説明しがたい衝動の、理由を探しながら膝をつき。垂れ下がり、少し大きくなっている気がするペニスを手に取り、口に含みながら、褐色の腹から辿って顔を見上げる。  目が合って、一瞬淡く歪んだようなアギレオの表情に、肋の内で鼓動が跳ねる。  ああ、抱くぞ抱くぞと煽られたせいだと結論づけて、目を伏せ。  手筒で撫でるように薄く扱きながら、少しずつ形が明確になっていく亀頭を舌でくるむように舐め回す。  舌を刺激する独特の他人臭さを、口の中に溜める唾液に泳がせ混ぜ溶かし。  不意に掌に頬を包まれ、そのまま滑る指に髪を抱かれて、再び目を上げる。髪を緩く掴んで引き離され、胸に溢れるような息を抜く。 「、」  アギレオの顔を見上げ、入り陽に陰って複雑な混色を描く双眸を見る。見下ろされて見つめ返し、互いに口を開きかけて、けれど言葉が出てこないのを知る。  脱いだ上衣の上に座り込むアギレオに二の腕を掴んで引き寄せられ、身を寄せる。木の幹に半ば背を預けて下ろす腰を跨がされ、互いのペニスを合わせて握らされる。厚い肩に手をついて身を支えながら、色の違う亀頭が並ぶそれがなんだか滑稽で、少し頬を緩めながらまとめて扱き。裏筋に触れる他者の熱さに息が抜ける。 「んっ」  尻を掴まれ、濡れた指で尻の穴に触れられて、背が浮く。 「扱くんじゃなく腰使ってこすってみろ」 「ん…、っ、ん、、ッ、ぁ、……嫌、」  勃起を擦り合わせるように腰を揺らせば、尻の穴に押し込まれた指がそのせいで出入りしてしまう。止まりそうになる動きを、擦りつけて返して煽られ、また腰を使う。 「ん、ンっ、ッ、ぁ、…んゥ、ぁ、ぁ…」  動くのに合わせて混ぜ返され、ひどく昂揚する。動きの変え方が分からず逃げられないまま、自分がそうするのを利用して後ろを広げられるのが、ひどく自虐的で、何かが崩れそうになる。 「は、あ、あア、…アギレオ、」  腰の下から満ちて、容易く全身を満たしていく熱いうねりのやり場に困り、背を屈めて唇に甘く噛みつく。絶対にまずい、と、薄く脳裏に過ぎっているのに、甘ったるさをどうにもできない。受け止めるように唇を食んで返され、そうしてから噛み返されるのに、力が抜けそうになる足が震える。 「ふ、ぅ、ゥ、ン、」  ハル、と、唇に潰すように呼ばれ、答える代わりに音立てて唇を吸い。 「ぁっ」  鉤にした指を引っ掛けるように引き抜かれ、背が深く反って、顔が離れる。腰を抱き寄せられ、膝行って、開いた穴に下から合わされる勃起に、動けない。入れられたいのに、この高さでは届かないだろうことが分かるのに、動いたら入ってしまうのがこわくて、戸惑う。 「そのまま腰下ろせ。ゆっくり…」 「あ、ああ、ぁ、ハ…」  上手く入らない。ごく浅いところを開かれてもそこから押し込めず、アギレオの顔を見る。向き合いに浮かぶ片笑みに、眉を寄せ。 「腰を浮かすな。座るのと同じだ」  座る、座る、と、鈍った頭に繰り返し、重心を落として下げる尻の間に擦りつけられ、揺する動きで馴染ませるように下から押し開かれる。 「は、ハ、ぁ、は、」 「上手い上手い」  雑に褒められてそれでも胸を緩め、自分で許して入れていく。 「ぁ、あ、は、ぅ、…あッ」  不意にペニスを握られ、亀頭の裏を親指の腹で擦られて、大袈裟なほど身が跳ねる。身体が、痺れる。 「待っ、今、いまは、ぁ、できなく、な、ぁッ」  意図と違う向きに腰が動いてしまい、そのたび思わぬところを掻かれて、顎が浮く。扱いて亀頭を撫で回され、煽るように裏を擦り上げられて、勝手に背がのたうつ。 「あ、あぁっ、は、ま、も、…そんな、そんなに、…駄目だ、だめ、」  扱き上げる動きを、腹の内から擦られる感覚が煽り、頂が近い。手淫を施す手に手を重ねても、止める力もなく添えるだけのようで。 「イキそうか?」 「…? …なに、…どこ、」  脈略の分からず見つめる顔に浅く噴き出されて、眉が下がる。 「これが。出そうなんだろ。言ってみろ、イキそうって」 「あッ、は…? ぁ、ァ、は、あぅ、ぁ」  急かすように擦られ、目を開いていられない。 「ぁ、あ、イキ、そ、…イ、キそ、う…ッ」  ああそういうことか、と、妙にどこかが冷静に理解して、言葉と感覚が繋がる。 「ン、イキそ、…あっ、ああ、ぁ、アギレオ、アギレオ、ァ、イ、ク…ッ!」  尿道を熱く通り抜けていく射精感に、顎を上げて息をつく。恍惚で力の抜けそうな身体を支えようと、褐色の肩に強く指を立ててしまう。長く息をつくところに両手で尻を抱え直され、目を開く。気怠さに任せてぼんやりとその顔を見つめようとした目を、衝撃に見開く。ゴツと音でもしそうな重さで下から突き上げられ、勝手に身が捩れる。 「あッ、あうッ…! な、ま、待っ、今、今…ッ、ぁッ、あっ」  勢いよく射精してしまって無防備に敏感な身体に、奥を突かれる刺激が強すぎて、背が反ったまま戻せない。 「はッ!あっ!あッ! いっ、いやだっ、やめ、やめっ、やだ、」  強すぎる快感は痛みに似て、けれど痛みとは違って身体が拒まず突きつけられて、逃げ場なく身悶える。 「あっ、あっ、ああッ、あンっ、」  自分の口から出た声に驚いて咄嗟に奥歯を食い縛り、力を入れていた足腰から一瞬力が抜けて、そこからぐずぐずと何かが崩れていく。 「はっ、い、いやだ、アギ、アギレオ、ッ…! あ、あ、あ、で、」  射精感に似て、けれどもっと深くから噴き零れるような感覚に、錯覚ではなく漏れて濡れるのが分かる。 「あ、ぁ、嫌……」  明らかに精液ではない、熱い体液が抜け出る感覚に、絶望する。 「ぁ、……」  排尿感の後の心地良さの中で、腹の奥に射精されて、力が抜ける。へたりと遠慮なくその胸に倒れ込み。 「……最低だ…」  胸を長く波打たせて息をつくアギレオが、指で腹を擦ってから自分の鼻先に近づけているのに、目を剥く。 「どっちだろうな。ア、小便じゃねえわ」 「ッ! …ッ嗅ぐな!」  手首を掴んで顔から離させると、今度は自分の顔に近づけられて、思い切り眉を寄せる。 「嗅いでみるか? 小便じゃねえぞ」 「……?」  怪訝に思いながらも余り近付かぬ程度に鼻を寄せて嗅ぎ、瞬く。確かに、匂いはほとんどなく、敢えていうなら汗に近い。眉を寄せたまま、アギレオに目を向け。 「…では、…何なんだ」  自分が出した物が何かと他者に尋ねる違和感はあるが、アギレオが答えを知っているという文脈は明らかに思えて。  だがおどけるに似て肩を竦められ、なに?と、こちらも首を傾いでしまう。 「さあな。我々下々の間じゃ潮噴くとはいうんだがな、エルフ様。実際は何なんだろな」 「潮……? 潮は噴かないだろう……」  そもそも潮を噴くというのは、と言いかけるのを、いらねーよその説明と笑われ、そうか、と息を抜く。  怠さも、尻の奥で萎えていく男のペニスも心地良い。  何も考えたくなくて、少し、目を閉じた。
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