28、情通

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28、情通

 裸の背をアギレオの胸に預けて、少し居心地が悪く、自らの腕を抱いて身を縮める。 「隠すんじゃねえよ、やりにくいだろうが」  後ろから腕を取って離され、開く胸に手が触れて、零れる息が熱い。 「ん、……」  宣言通りとでもいうべきか、下から持ち上げるようにねっとりと這う掌が、外周を巡って皮膚を薄く削るように胸を摩る。  意識するからだ、と、思うのに、肌の下で疼くような解れるような、快さが少し熱っぽい。 「は……、ぁ、」  戸惑って逃れようと傾く身に、追い打ちのように首筋に唇が触れ、肌を吸われて背が震える。  ほぐして溶かすように揉まれる胸に乱れていく。胡座の足に閉じ込められた脚が窮屈で、逃がそうと伸ばしかけるのを、途端にまた足絡めに押し込まれて、眉間が詰まる。 「も、…っ、おい、」 「なんだよ」  見える位置にない顔が、けれど笑っているのは声で解る。唇の甘さにとけていた肌に牙の固さを擦りつけられれば、息に声が混じる。 「アギレオ、」  ん?と、鼻先で返される声が柔くて、眉が下がる。気持ちいい。けれど、もどかしい。 「ぁっ、」  じっくりと胸を揉んでいた手が指を伸ばし、指の腹でひどく淡く、乳輪をくるりとなぞる。 「は、あ、ア、…っ」  焦れて屈みそうになる胸を起こさせられ、逃げ場がなくて足が開く。その先に触れて欲しいのが口惜しく、焦らす手の甲に爪を立てる。 「ぁぅッ」  仕返しのように乳首の根を強く摘ままれ、声が跳ねる。  舌で肩をなぞっている頭を頬で押し退けて、なんだと言わんばかりに、けれど予想通り人の悪い笑みを浮かべている顔を更に退かせる。  弄ばれて顎が上がり、口を閉じられない。そのまま、身を捩るようにして首筋に噛みついてやる。 「はぁ、ふ…ッ」  淡く歯を立てたまま、その内で舌を伸ばして肌を舐めれば、不意をつくように乳首を捏ねられ、噛みついていられない。  既に固く立ち上がった乳首の芯を、弄るように摘まんだままで捩られ、爪弾いてはあやすように指の腹で撫でられて、たまらず縋るように傍らの顎を吸う。 「んんー…」  片手で弄るままに逆の手が腹へ、腹から脚の間へと掌を擦りつけて下り、背が反る。  勃起しかけのペニスと睾丸を雑に持ち上げられても、節が数えられそうに生々しい指の感触に震えてしまう。 「はア、…あア…」  揺すって遊ばれ、口惜しいと思うのに、それすら、もどかしいほど足らぬ悦と、手指が忍び寄る期待で霞んで失せる。  追って下りる手が尻の肉を開き、這い込む指が谷底を通るよう一本線で深みをなぞって、膝が震える。 「アギ、」  声が続かない。ようやく脚を解かれ、寛がせようと伸ばしたつもりが、ふ、と吐息に笑われて、知らず大きく開いてしまっているのに気づいて顔を背ける。 「アギレオ…」  ん?と、ひどく甘い声が耳の裏に押しつけられ、淡く身震いがはしる。 「…どうして欲しいか言えよ」  どうして欲しい?と、重ねて囁かれ、背ける顔に血が上る。思い浮かんだことがあって、その内容に赤面してしまう。  けれど、ああ、 「……前に、…最初に、お前が私に触れた時に、…」 「うン?」  わざと焦らして促しているのだろう、穴に触れず尻の割れ目の深くを行き戻りする指に、身を捩る。 「…あの続きが知りたい……」  へ?と、甘い色をなくす声に、少し胸を緩めて息を抜く。 「指で、…腹の中に触れられて…、…それまで、慣れても快感ではなかったのに、……お前が……」  ああー…、と合点の声が聞こえて、それ以上説明しなくてよさそうなことに胸を撫で下ろす。 「アレが気に入ったのか」  遠慮のない物言いに、ビクリと勝手に肩が跳ねてしまう。  耳の先まで熱い。 「いいぜ。あのまま続けてたらどうなってたか、教えてやるよ」  言い回しに深く羞恥を煽られる。  知らず傾いて離れそうになる肩を抱き戻され、息を抜いても、身は緩まない。  片手で片方ずつ、促されて大きく脚を開き直す。練り薬で濡れた指が触れて、身が竦む。 「ぁ、」 「…ん、」  指の先が入ってきて、同時に声を上げてしまう。少し、というほどだが、筋肉が固くなっているのが分かる。 「んぅー…っ」  それなのに、そのまま指の長さを押し込まれて、背が反る。 「あっ、ああっ…」  長い指が幾度か往復を繰り返し、螺旋を描くようにして窄まった穴を解す。 「は、ふ、ぅ、ゥ、」  指が増やされ、中からと、外から親指を混ぜて揉み広げられているのが分かるのに、自分の身体がどこにあるのか分からなくなってくる。  滲む視界が覚束なくて、傍らの肌に頬を擦り寄せ、歯先を擦りつける。  ハル、と、ひそめた低い声が聞こえて、おぼろげに頷く。 「あッ!」  指が這い回るねっとりとした悦とは違う、打たれるほど明確な快に身が跳ねる。  性器の芯を裏側から弄られる、ごく直接的な、けれどどこか捩れた快感が、深い。 「ここだな」 「はっ、あっ、…ッ、ん、ぅク、っ」  触れられて泉のように性感を湧かせるそこを、やんわりと繰り返し撫でられて、勝手に身体がのたうつ。 「もっと強くか? このまま?」 「っ、わから、な、…ッ、んゥっ」  ん。と、分からないと言ったのに何を了承したのか、指の動きが少し、強く速くなって。 「ぅア、ぁ、ぁ、あぁ、っあ、」  不意に腕が背を抱き留め、シーツに下ろされて一瞬混乱する。  仰け反りすぎて倒れたのだと気づくのすら、たちまちの内にうやむやになってしまう。 「ぁ、ァ、い、嫌だ、いや、だめ、」  腰から下だけ胡座に預けたまま、それでも楽な姿勢で身を伸べてしまうと、指に捏ねられる快感が集中し、みるみる昂ぶっていく。 「ぁ、ぁ、ぁ、」 「…嫌じゃねえだろ。なんて言うんだ?」  濡れたような声がどこか意地悪く問うのに、そうじゃないと、その顔も見えぬままで頭を振る。 「…だめ、駄目だ、っ、ぃ、…イキ、そ…ッ」  転がすように小刻みに掻かれて、止められない。  腰の裏から背が痺れ、首の後ろに湧く甘さが指先まで奔りまわる。  ああ、と、声が聞こえて。 「っ…!」  ペニスをやんわりと掴んでくる手を、闇に手探るようなもどかしさで辿り当て、引き剥がす。 「っ、ぃ、や……、っこの、まま…」  気が散る、と、声にならず動かした唇が見えたかどうかは知らないまま、力を抜いたアギレオの手を離し、身を投げ出すように快楽に溺れる。何か言われたのは聞こえたが、なんと言ったのか聞き取れない。 「は、あ、あ、」  知ってしまった腹の中での絶頂が間近に見えて、手足に力が籠もる。 「あッ、っ、ああ、アーー……ッ」  腹の中で快感が膨れ、爆ぜて溢れ、そこからそこら中が濡れていくような錯覚に、尻が勝手に大きな痙攣を繰り返す。  胸を喘がせる息すら、溶けていく悦の残り火を煽る。  怠い身体が少し浮いて、息を零しながら目を上げる。アギレオの顔が陰を作っているの見て、枕の位置に頭のある格好に寝かせ直されたのだと知って。  掌に撫でられ、頬を擦り寄せる。 「俺も入ってもいいか」  柔い声で、胸が少しくすぐったく感じる。  手を取られて勃起したペニスを握らされ、指先で愛でるように裏筋を撫でながら、邪魔な涙を瞬いてこぼしてしまう。 「おまえは…?」 「ン?」  喉に絡むような声になってしまって、喉の奥で小さく咳払いして。 「お前は、どこがいいんだ…?」  目を見開くのを見つめていたら、ふいに唇を奪われ、音が立つのに驚いて身を竦めてしまう。 「ンじゃあ、背中」  うん、と気怠く頷いて、腕を上げて、覆い被さる背を両手で抱く。 「あ、」  撫でようとしたところで押し込まれて、唇からこぼれる声が溶けておちる。 「ハ…、あぁ……」  入ってくる、形がどの部分なのかすら分かる。  飲み込むようにして亀頭の太さに集中していれば、狭え、と不意に低く呻いたような声に、頷く。 「大きい…」  日が空いたからだなと同意したつもりだったのに、脈打つ感触とともに太さが増して押し開かれ、喜ばせてしまった…、と、まだ少し口惜しくなる。  手や腕に伝わる震えで、笑っているのが分かる。相手にせず、背を絞るようにして抱き寄せ、身を擦り合わせ。 「は……、っ、アギレオ…」 「ん。…気持ちいいか」  鼻でつく息で頷いて、頬擦りする。 「ぁ、深い…、っくまで、…おおき、……アギレオ、アギレオ、」  気持ちいい、と、勝手に口をついてこぼれていく声を擦りつけるようにして、唇を触れる肌がどこなのかはもう分からない。  脈打つ熱を根まで埋められ息を喘がせる耳に、唇が触れる。  俺も気持ちいい、と囁かれ、その声と吐息の湿りにゾクッと大きく背が震える。 「っぁ、…ァッ、ぁ、ぁあ…ッ」  慄きに引きずられるように浅く極めてしまって、混乱する。 「っ、……。ハ…、一人でイキまくりやがって…」 「ちが…」  顔を覆いたいのに、手がどこにあるのか分からない。  抱いた背を引き寄せて首筋に顔を埋め。  ズルと音でも立てそうに引いていくと、中が擦れる感覚が悦くて、眉が下がる。 「ゆっくり? もっと速くか?」  亀頭の張り出した段差に長く腹を掻かれて顎が上がる。 「は、あ…、ぁ、このまま、…ァ、」  もう耳慣れたような、ン。と共にまた奥へと押し開かれ、尻の奥が痺れるのに、たまらず逞しい背に縋る。  ゆっくり、ゆっくりと出入りが繰り返されて、絶頂を繰り返して乱れた内側の肉を均していく。  波立って荒れた体感がなだめられ、面になって筒になって肉塊めき、彼の身体を追い掛けはじめる。 「ふ、ゥ、……ん、…アギレオ、」 「…うん?」  滲んで見えない目を凝らして、混色の瞳を探す。 「……大丈夫だ。…お前の悦いように動いてくれ…」  髪を退けて額にくちづけられ、また少し震える。 「…このままがいいなら、構わねえぜ」  言葉を交わすさなかにも抽送は続いて、喋りにくい。ん、と、息を飲む間を挟み。  見えぬ目を諦めて額を擦りつけ、背を辿り下ろして、引き締まった臀部を両手で掴む。 「身体が、…開いてしまったから、…もう、…激しくても、いい…」  ゴクッと、それなりに凄い音をさせて息を飲むのが聞こえ、掠れながらの息で笑ってしまう。  ド!と、音がしたかと思うほど。 「アッ!」  身ごと押し上げそうなほど強く突かれ、背が跳ねて反る。 「はッ、あッ、あ、ああッ、ぁ、ぁ、ア、」  繰り返し突き刺され、貫かれて崩れていく。己の快感を生んでいるアギレオの激しい動きで、彼も己から快楽を得ているのだと知る悦が、膨れて腫れて、溢れる。  ぬかるみを踏み荒らすような水音と、青いような匂いがして、その粗暴さに酔う身体が、濡れる。 「アギレオ、ああ、アギレオ、は、あア、あー…、ぁ、ああー…」  崩れて綻び、熱をたたえて垂れ流れていくような身体の快楽を、ふいに、情感が勝る。  名前のない激情に委ねてアギレオに縋り、息を切らして快楽を追っている男の律動に耳を傾け。  不意打ちのように時折緩急を混ぜながら、いつまでも続くような荒々しい情交に、言語化された思考は失せて、あられもないほどの耽溺の中で、不規則な波のように時折小さく絶頂を繰り返す。  ふいに、爪を立てるようにして抱いた腰が強張って止まり、震えが伝わって、待つ。  あア、と、ため息のような声がひとつ聞こえて。 「あ、……ぁぅ、」  尻の奥で濡れた熱が沁みて、自分の中で射精されているのが判り。ゆるやかにまた極まるのに、止められず胴震いする。  互いに獣のように短い息を交わし、眉を寄せ息を薄くしている顔を呆けたように見つめる。 「ハル、」  掠れて艶めいた声に名を呼ばれて、背に震えがはしる。  脚を腕に抱え直され、腰を入れてまた動き出すのが分かって。蕩けた肉をまた乱し始める雄を、膝を開き直して迎え入れた。
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