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8、崩れ綻び
重みを掛けられた寝台がギシリと鳴る。
隣に寝そべられて、迷う。迷って、狼狽え、結局そちらを向くことはできずに、シーツを握り締めた。
「っ、」
炙るようにじっくりと乳首を舐められ、胸が震えて息がしづらい。歯先でつままれると、それが固くなっているのが分かり、ひどく恥ずかしい。
「ぅ…」
片足を折り畳むように抱え込まれ、そうして開かせる尻の穴に濡れた指が触れる。クルリ、クルリ、と円を描くように塗りつけながらそのまま入り込まれ、溢れそうになる声を噛んで、手の甲で口を押さえる。
入ってしまってからごく浅く抜き挿しされるそこと、歯と舌で弄ばれる乳首の痺れが繋がるように感じる。その間にあるペニスが反応しているのが、見なくても分かる。
「ふ、ゥ、ぅ、、ン、……ッぅ」
あえかな水音を立てて抜き去られた指に、いつの間にか閉じていた目を開く。遠い方の肩の裏から起こされ、背から腰へと伝う手に従って身を転じれば、顔が向き合う。
また片笑いしている顔にどんな顔を合わせればいいのか分からず、もっと深く潜るようにしてシーツに顔を擦りつけ。
上になった足を引き寄せて屈強な腰を跨がされ、目を伏せる。
「ぁっ」
指がまた侵入ってきて、目を開く。
「、は……」
そのまま、今度は弄り回さず奥へ押し込まれて、息が溶ける。
「気持ちいいって言えよ」
突然の声に、肩が跳ねる。
「っ、そんな、こと…」
指の根の骨が当たるほど深く入った指が、粘膜を薄く引きつれるように引いていくのに、震える。
「気持ちいいかとは訊いてねえよ。言えっつったんだ」
「……なん、…、ふ、…ゥ、」
ゆっくりと速度を得ながら長い抜き差しを繰り返す指に、食わされたそこが勝手に収縮を繰り返す。
「ほら、気持ちいいって言え」
「……は、ァ、ぁ」
頭が混乱する。
「……ぁ、……気持ちい、ぃ……、っ」
口にした自分の声が自分の耳に届いて、大袈裟なほど身が跳ねる。罠だった、と訳も分からず咄嗟に思う。
「は、ぁ、あア……、いや…」
気持ちいい、と言った自分の言葉が耳に残って、それしか考えられなくなる。次第に大きくなる水音が、溶けていくような混乱を煽る。
「はぁッ…!」
まだ濡れている乳首を指でつままれ、抜ける息に声が混じる。先より強く、抓るに近くて確かに痛いのに、腰の裏の甘さが鈍らせるようで。
「…もう一度言うんだ」
「ッ、…は、ぃゃ、気持ちいい…、っ、あっ、あ、ああっ」
途端に掻き回され、指を開いて大きく広げられ、背が反る。
気持ちいい。
「ぁ、ぁ、やめ、あ。」
指を抜かれ、乳首を捻ってから離されて、のたうちそうなのを堪えていた身体から力が抜ける。息が乱れきり、シーツに唇を擦りつける。耳について身体中を侵した感覚が、離れない。
気持ちいい、気持ちいい。
身を起こした男に、片足を腕に抱えるように開かされ、目を上げられない。
「あっ、ああ…」
指とは比べものにならない太さで押し開かれ、少しヒリとする痛みを通り抜けて、腹の中に入られる。
「…は、…あ、…ぁ、」
下から奥へ、奥へと掻き分けて埋め込まれ、顔の前で指を立ててシーツを掻く。ああ、
「どうした…」
ああ、また。男が笑っている理由を、知っている。自分がどう感じているか、知っている。
ここまでだと示すようにそれが止まって、ようやく息をつく。波打つ胸を宥めるけれど、動かなくても、もう。そこに、そうある、それの熱さが。太さが。微かな蠢きが。
ヒク、と、不随意に薄く胴震いがはしる。
「ふ……」
「動くぞ」
「っ」
耳に押し当てる唇で囁かれ、ブルッと身震いする。
「は…、ん…」
引き去っていく熱楔のおうとつが中を掻いて、痺れる。
「あ、」
抜ける、と思うほど浅いところで引き返され、奥へ入ってこられると、深い充足感がある。
「は、ぁ、あ、」
ゆっくりと繰り返されるたびに何かが溶けて、身体が引きずられなくなって、男が出入りするそこがよく滑るのが分かる。
無理に抉じ開けられる言えなさよりも、なめらかに滑って出入りされるのが、たまらない。
「あっう、っ、ン、…んゥッ」
快楽が飲み込みきれずシーツを蹴る踵で身体がずり上がり、腰を掴んで引き下ろされて。そうする動きが深い侵入になって、息がとろける。
繰り返し繰り返し同じように擦り上げられて、境目が分からなくなってくる。
腕を取られて何かを抱かされ、縋りつく。
汗で滑る肌の心地良さを抱き寄せ、ああ、と。言いようもなく挫ける心地になりながら、息を薄くして汗を滲ませながら自分を抱く男の背を、抱く。
性悦より手前の、抱き合う安堵で身体が開いていくように感じる。開いてしまう身体に入り込まれて、溢れる。
「は、あ、あっ、ぁ…」
額の裏が白く消えていくような感覚と、浅ましいほど明確な、互いの身の間で擦られる雄の歓びが極まる。
「…ハル、」
「はっ」
耳の縁を舐められ、震える。一瞬なんだか分からず、ハル、と向けられる声の二度目で、名を詰めて呼んでいるのだと気づいて、目を開く。
声にならない。厚みのある背を、絞るように抱き締めて応え。
「…気持ちいいか」
「……っ」
それは、ずるい。
「…気持ちいい…!、あッ」
口にした途端に頂を極め、尿道を噴き上がって鈴口から熱が溢れる悦に、震える。
「あ、あァ…」
浸りたい余韻を轢き潰すように、続く抽送を受け止めきれず、身体からすら溢れそうな甘快に背が浮き、顎が上がる。
「は、ぅ、あッ、ぁ、――アッ?」
ズブと音がしそうなほど。入られたことのないほど深くに押し込まれ、鋭い痺れのようなものが背筋を逆さに上がる。
何をされているのか分からず、慌てるように手を引いて、押し退けようと胸に突く手を、捕えられ、頭の上に縫い止められる。
「まだだ」
全部入ってない、と耳元に囁かれ、込み上げる感情が言葉にならない。ただ鳥肌が立つ。
「あ、あ、そんな、そんな…、っ、あっ、嫌だ、や、深、おく、あっ」
無理に分け入るようなそれが、深い場所で行き詰まったような手応えがあって、尻に男の腹がつく感触で、理解する。
動くぞ、と言われて、慄く。腰から下が、どこにあるのか分からないほどで。初めて知った男のそれの大きさと場所ばかりが、あからさまに脈打って主張する。
「は、あッ」
突かれる、という感覚が分かる。
「ぁ、ああ、ああ、あ、あァ…」
強く突かれて身体が揺す振られるたび、意識は濡れて、力が抜ける。どこか不釣り合いに、ああこの男は、本当はこんな風に動くのかと思う。身体が勝手に捩れるのを時折押さえつけられても、自分で動かすことも止めることもできない。
「あぁー…、ぁァ……」
ふ、と、意識が遠退いた。
目を覚ます、というほど明確な意識があった覚えがない。のだが。
途切れ途切れの記憶に、身を縮め、伸ばし、持ち上げられ押しつけられながら、散々弄ばれたのが焼き付いている。
身体が怠いし、内股の筋肉と関節が痛い。喉が渇いたなと、寝息を立てる男を起こさないようにそうっと身を起こし。
「っ…!」
尻を上げようとしたところで垂れ出て、ぬるりと伝い落ちた感触に、歯噛みする。濡らしてしまったシーツに尻を落として、両手で顔を覆って擦る。
肩が上下するほど大きく息をつき、手を下ろして、寝息を立てている男の顔を見る。手を伸ばして、指の背で眦を少し擦り。
あんなにされたら、もう、どうしようもない。
「…やはり鬼だろう、お前…」
くちづけようかと少し考えて、ため息などつきながら、考え直す。してやるものか、と、力も籠もらぬ意地を張って、やれやれと立ち上がり。男の足を跨いで寝台から降りた。
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