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振り向くとそこに征司が立っていた。
普段よりカジュアルな装い——それでも誰より目立つ。
「ちょ……天宮の御曹司だ」
予定外の人物の訪問に現場もざわめいた。
しかしそんな事などお構いなしに征司はポケットに両手を突っ込んだままふらふらと僕らのところへやってきた。
「弟が仕事をしてるというから来てみればなんだ?人前で裸になる仕事か」
開口一番はもちろんエッジの利いた嫌味だ。
「あんたがついててよくOKしたもんだ」
「やめて。九条さんも知らなかったの」
僕が何事もない顔して居丈高な兄を窘める中。
スタッフはしどろもどろ椅子とコーヒーを置いて後ずさる。
「それに僕が大丈夫だと言ったんです」
仕方ないさ。
天宮征司に免疫のない人間は声さえかけられやしない。
「まあな、おまえは大丈夫だろうさ——根っから淫乱だしな」
そういうオーラを出す人だ。
「わざわざ僕と弟を侮辱しに来たのか?それともじっと待っていられないほど恋しくて?」
鼻白んだ調子で九条さんが食ってかかると。
「まさか。検診の帰りだよ。病院からの通り道だ。分かるだろ?」
挑発的に口端を上げて征司はコーヒーに手を伸ばした。
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