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しかし安物のプラコップに入ったコーヒーなんてこの人が飲むわけない。
鼻先に持って行って渋い顔しただけで、案の定カップを元の場所に戻す。
「あんたの肝臓、順調に俺の中で動いてるってさ。ああ、なんだか胸糞悪くなってきたな。どうだ?今度は心臓も移植してくれるかい?」
「考えておくよ」
九条さんがこれ以上ないブラックジョークにクスリと笑う。
「あのー、次の撮影なんですがいいですか?」
そこによくぞ割って入ってきてくれたカメラマンが遠慮がちに僕らを見まわす。
「ええ、もちろん」
僕が立ち上がると。
それでもカメラマンは2人の紳士をじっと見つめて言う。
「あの、もしよろしければどちらか肩をお貸しいただけないでしょうか?」
「肩?」
真っ先に聞き返したのはほかでもない僕だ。
「はい。次はこんな構図で撮りたいんです」
見れば手元に絵コンテを持っていて。
肩幅の広い後ろ向きの男の首筋に僕が両手を回すようなポーズが描かれていた。
「そうだな。僕はどちらのお兄様の肩でもいいと思うんだけど——」
やめろ。
それ以上言うなと胸の警報機が鳴るけれど。
「君のやりやすい方の肩で選んでくれないか?」
そんなの赤の他人に聞こえるはずない。
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