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征司が消えそして九条さんも視界から消えた。
僕はいてもたってもいられず
「すみません、なかなか外れなくて」
「いいよ。買い取るから、もういい」
ブレスレットを外すのに難儀している女の子を押しのけるように席を立つと、着せられたばかりのガウンを脱ぎ捨て自分のシャツに慌てて袖を通す。
「ああ、お疲れさまでした。新作が出たらまたモデルを……」
オーナーらしき男が握手を求めてくるが知るもんか。
シャツのボタンを留める間もなく僕は駆け出した。
どちらを追っているのか?
正直自分でもよく分からない。
いや、考えるのを避けているんだと思う。
いつもの如く。
スタジオのドアを開けたその先で僕を待っているのは?
もしかしたら……どちらもいないかもしれない。
そう考えると血の気が引くような思いだった。
どっちつかずの蝙蝠にもちゃんと血が通っているのならの話。
「ねえ、この指輪とこの指輪ならどっち好き?」
「決められないよ。どっちも素敵だもん」
「だよね。じゃ両方買っちゃう?」
「ダメダメ。そんな贅沢出来ないわ」
たまたま。
ジュエリーショップの女の子たちのはしゃぐ声が啓示のように僕の耳をとらえた。
両方手に入れるのは贅沢なのか——。
ドアノブを握る手が冷たい。
「じゃあ選べよ!今すぐどっちか選べ!できないだろ!」
思わず叫んで彼女たちの顔に貼り付いた驚愕の表情に自分が一番驚いた。
僕は弾かれたように外に飛び出した。
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