49人が本棚に入れています
本棚に追加
扉の外には案の定誰もいなかった。
スタジオの前に停めてあったはずの白いポルシェが跡形もなく消えていた。
それを目にした瞬間。
膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえる。
夕暮れに差し掛かる曇天。
冷たい風がシャツ1枚の僕に容赦なく吹き付ける。
と――、
震える身体に後ろから温かみを感じた。
振り返る間もなく。
それが先刻まで僕を抱いて撮影していたフレッドペリーのジャケットだと分かる。
「頭を下げて頼んだ。今日だけは何も言わずこのまま帰ってくれと」
肩先からずり落ちるオーバーサイズのジャケットを抑え込むようにして、征司が後ろから僕をすっぽりと抱く。
「あなたが……頭を下げた?」
「ああ」
どうにも納得いかない。
「そしたらあの人、何も言わず帰ったの」
「そうだ」
「どうして……」
しかし僕がへたな詮索をする前に。
征司は僕を身体ごと自分の方へ回転させて。
「ッ……!」
ただ待ち侘びていたかのように、強引に唇を奪った。
最初のコメントを投稿しよう!