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征司にはなから僕を帰す気などなかったらしい。
いや、初めからそのつもりで来たんだ。
「あぁんっ……!いきなりすぎます……」
「いきなりってなんだよ?」
「……いきなり撮影現場に現れて……いきなり僕をこんなところに連れ込んで……」
車を走らせると普段は使うことのないような海沿いのモーテルに征司はベントレーを突っ込んだ。
見た目こそ悪くはなかったけれど。
年季の入ったきな臭い部屋に。
スプリングが馬鹿になったみたいに軋むベッド。
すすけたカーテンの向こうはオーシャンビュー。
ちょうど色濃い夕日が落ちるロケーションまで安物の映画みたいだ。
「おまえにとってはいきなりでも俺にとっては違う」
「え……」
「あいつといる間さんざん待っててやっただろ」
征司の瞳は夕日の色と同じ真っ赤に染まっている。
だけど僕以外何も見えちゃいないのは丸分かりだ。
「征司お兄様っ……」
有無を言わさず僕をベッドに押し倒すと。
征司は手首を掴んでなかなか外れなかったブレスレットを力尽く引きちぎった。
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