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「あ、いえ……」
もちろんそんな事
あの九条敬がペラペラ喋るわけないさ。
「ええ、うちの主人ったら私も知らない間にそんな大事なこと決めてしまって。ねえ、あなた?」
人の手柄を横取りしたい我が家の紅一点。
「そりゃあ、こんな美しい細君に心配かけられやしませんよ。男としては、なあ」
「あら嫌ですわ、そんなこと」
のうのうと偽りの夫の腕を組み我が事のように称賛を浴びながら。
憎いほど華奢なウエストラインをくねらせる。
「あの紫のドレスはちょっと下品だよね」
「知るかよ、俺の前で妬くな」
言いながら薫が去って行く。
と――。
「和樹、ちょっといいかな」
「僕……?」
小柄な眼鏡の男性と話していた九条さんはそれとなく妻の腕を振りほどき。
「ああ、君を紹介して欲しいという方がいるんだ」
上品な笑みを浮かべたまま僕を連れに来た。
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