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「それじゃ聞くけど——」
征司の瞳の中に九条さんの面影はもうない。
当たり前だ——。
「彼、本当に自分から帰ったの……?」
臓器を移植したから彼が征司の中にいるなんてありえない。
全ては快楽が見せた幻だったんだ。
「本当のことを言ったら、おまえ俺に感謝するぞ」
「どういうことですか……?」
汗が冷えて身体が冷たくなってきていた。
だけど頬は火照ったまま全くバランスがとれていないみたいだ。
「そろそろ自分は身を引いた方がいいかもしれないと——あの男の方から言ったんだ」
「……え?」
僕は勢いづいて半身起こし、無表情に征司を見下ろす。
「聞こえたろ?ようやく真実を見つめたのさ」
「嘘……」
「嘘じゃない」
九条さんが?
どんな真実を見つめて……僕を放り出した?
「信じない!そんなの信じないよ!」
「屋敷に戻れば分かるさ——最も今夜帰す気はないけどな」
「いやぁっ……!」
悲鳴は塞ぎこまれ再び組み敷かれる。
征司は一層手荒に僕を捻じ伏せた。
「イヤだよ……放してっ……!」
すぐに理解した。
「黙れ。気を失うまで抱いててやるから——」
僕を行かせないのは――残酷な現実を見せないための——征司の最大限の優しさだってことくらい。
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