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征司はただ無言で九条さんに向き直る。
しかし武道でいえばそれは構えの姿勢だ。
「おっと、皆さんの前で――僕は余計なことを言ったようだね」
しかし九条さんも引かない。
ついうっかりというていで、そんな征司を前にゆっくりと前髪をかき上げた。
「あなた、今日はシャンパンを飲み過ぎだわ」
そんな2人の間に割って入ったのは貴恵だ。
優しい口調とは裏腹、瞳の奥は尖って美貌の夫をねめつけている。
「そろそろお部屋に戻った方がいいんじゃないかしら?」
それは打診じゃなく命令だ。
怒った女特有の笑い方をして、まわりの空気を震わせる。
「婿養子は引っ込んでおけって?」
「まさか。ただあんまり馬鹿なこと仰るから。恥をかく前に妻からの忠告だと思って聞いて頂戴」
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが。
この場合まだ内臓と憎悪を分け合った男同士が争うよりありがたい。
今日に限っては僕にとっても助け船だったともいえる。
「あの、僕ができることならば喜んで協力させて頂きます」
僕はコウモリだ。
僕はまず九条さんの連れてきた小男ににこやかに笑いかけ。
「もちろん征司お兄様のお手伝いもさせて頂きますよ。もっとも僕なんて邪魔して怒られちゃうことの方が多いかもしれないけれど」
あとはあざとくただ可愛らしい声音を作ってその場を和ませる。
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