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その夜を境に2人の男の溝は
それこそ底なし沼ほどに深まったと言える。
数日後、約束通り九条さんと彼のホテルが出資するというジュエリー工房の広告写真を撮りにスタジオへ。
「はい、ちょっと休憩。ジュエリーを変えてからまた撮りまーす!」
九条さんは契約になかったとごねたが。
僕は裸の上半身に霧吹きで水を吹きかけられた濡れ姿で、ジュエリーだけを纏うという演出になっていた。
「出資の話を打ち切ってやると言ったが広報のあいつ、平謝りするばかりでさ。君がその気なら訴えたっていいんだ」
おかんむりの九条さんは撮影スタッフからひったくったタオルで誰よりも早く僕のもとに駆け付け濡れた身体を包む。
「大丈夫ですよ。モニターを確認したでしょう?とても綺麗に撮れてるって」
「そりゃそうさ。君がモデルなんだ。だけど風邪でも引いたら——」
「心配性さん」
またすぐ水をかけられるのに。
必死で濡れた髪を拭く彼氏の唇に僕はそっと人差し指を押し当てた。
「それとも僕の裸を人に見せるのがイヤなの?」
からかったつもりが。
九条敬は全く真剣に声を荒げる。
「当り前じゃないか!見ず知らずの人たちに僕の大切な……」
「すみませ~ん、次はこのネックレスとブレスレットお願いします」
そこまで言ったところで。
スタッフの女の子が次の商品を持って現れた。
「僕の大切な何ですって……?」
ジュエリーを付け替えてもらいながら僕はあえて意地悪く聞き返す。
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