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episode245
快気祝いの夜だ――。
そして気まずいだけの夜だ。
「九条くん、君をビジネスパートナーに迎えられて皆喜んでいるよ」
「天宮の家には君がいないとダメだ。大きな声じゃ言えないがね、唯一話が通じる相手だと誰もが知ってる」
「正直言いたまえ。今じゃ君が裏ですべてを取り仕切っているんだろう?だから何もかもスムーズに進むんだ。やっぱりね、今の時代は家柄より人柄だよ」
僕は九条敬を取り巻く人々を遠巻きに見ている。
無論征司の傍を離れない取り巻きもいる。
しかしそれは父の代からの古株ばかりだ。
「今や世間はなにかありゃパワハラだ、モラハラだって騒ぐ時代だからな」
「パヮ……なんですって?」
いつの間にかカクテルグラスを手に取った薫が僕の隣に並んで肩をすくめる。
「遊んでばかりいないでニュースぐらい見ろよ。パワーハラスメント、人間関係の優位性によって相手に苦痛を与える。モラルハラスメント、暴言や行動によって相手を精神的に追い詰める。つまりは征司兄のことだな」
カクテルに口をつけ、とびきりの冗談を言ったみたいに白い歯をのぞかた。
「つまり征司お兄様のやり方は今の時代にはそぐわないってこと……?」
「ああ、親父の代から懇意にしている古狸どもはともかく——ビジネスに新規参入する連中や今まで鬱憤を溜めていた連中がどちらにつくか」
対照的な黒と白。
フォーマルブラックに身を包んだいかにも近寄りがたい我が家の当主と。
オフホワイトを基調に上品なグレーのジャケットを纏ったあくまでソフトな九条敬。
「おまけに君——酒で肝臓をダメにしたご当主に臓器提供したんだって?」
「あの若さでな、先が思いやられる」
「それにしても九条さん、あなたは本当に誠実で善良な方なんですね」
「その上ためらいなく臓器を提供するなんて勇気もある」
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