一方通行

1/4
前へ
/22ページ
次へ

一方通行

カバンの中のスマホが震える。 きっと飯田くんからだなと思い、大きな溜め息と共に取り出した。 【遅れます】 たった一言だけ。 らしいといえばらしいのだけど、せめて頭に「ごめん」だとか付けてくれたらこちらも気持ちが収まるのだけど。 真面目で優しくて頼りになって、ちょっと寡黙だけど話せばユーモアもあって楽しい。そんな同期の飯田くんを好きになった。 ただ見ているだけでいいなんて想いをひた隠しにしていたけど、突然の飯田くんの転職。 送別会をやったとき、もう会えなくなるかもと思ったら胸が苦しくなって、お酒の力を借りて勢いで告白したっけ。 「飯田くんが好きです。よかったらお付き合いしてください」 「……よろしくお願いします」 まさかの答えに、涙が出るほど嬉しかった記憶。 なのに……。 いつもデートの誘いは私から。 電話もメールも私から。 仕事人間な飯田くんは、毎回のように遅刻。 わかってる。 今の仕事を大切にしてること。 転職して、やっと夢を掴んだことも教えてくれた。 意志が強くてしっかりした考えを持っていて、そういうところは本当に尊敬に値する。 だけど。 私のことは大切じゃないの? 飯田くんの仕事に焼きもちを妬いてしまう。 我ながらバカだなぁとは思う。 でも、でもね。 私だって飯田くんの彼女なんだから、大切にされたい。 好きだって言ってくれたことなんて、あったかな? ないんじゃない? いつも私からの一方通行な想い。 子供みたいに拗ねてしまう私は、たぶんまだ子供なんだと、……思う。 飯田くんを待ちながら、空を仰ぐ。 私、飯田くんにとって何なんだろう。 飯田くんは私のことをどう思ってるの。 付き合ってもう一年。 聞きたくても聞けない臆病な私。 考えれば考えるほど辛くなってきて、視界がぼやけるのを必死に我慢した。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加