Età della luna 1 Conducono a Roma.

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 没落し、将来の見通しも立たない上に、女性よりも使えないではかなり情けないが。  アベーレはヨランダの後ろ姿を眺めた。  屋敷の中は、自分たち以外に人の気配は無かった。  古い屋敷のようだったが、調度品などが盗まれた痕跡は無く、(ほこり)も積もってはいなかった。  長く放置されていた感じではない。  親戚の殆どが忘れていたであろうこの別邸に、手入れに入っていた者がいたのか。  客室の扉の並ぶ廊下を抜けると、広い玄関ホールに行き当たった。  夕べは暗くて分からなかったが、ホール内は非常に広かった。  吹き抜けの天井が高く、二股に分かれた階段の間に大きな翼を広げた女性の像があった。  アベーレは像の頭部を見上げた。  首が無かった。  取れたという訳ではなく、始めから無いようだった。  首から下は、薄い衣を風に(なび)かせ美しい肢体を軽く捩っている。  自身より大きな背中の翼が今にも羽ばたきそうだった。 「何をモチーフにしているのかな。フィレンツェ辺りにあったか」 「さあ。ユディトなら、首は相手のものを持っているはずよね」  振り向きもせずにヨランダは言った。  ああ……とアベーレは頷いた。 「だだの作者の創作かな」  もう一度アベーレは女性の像を見上げた。  均整の取れた肢体に不自然な箇所はなく、デッサンからきちんと学んだ作者の手によるものだろうと思った。  正確に身体を描写するために、腑分けにまで参加した芸術家が昔いたと聞いたことがあるが、あるいはこの作者もそこまでしたのか。  勝手知ったるような足取りで、ヨランダは階段の横の廊下に歩を進めた。 「何があるんですか、そちらは。厨房?」 「厨房は奥。その途中に食堂広間があるの」  ショールを一度大きく広げ、肩に掛け直しながらヨランダは言った。 「……既に随分お詳しいんですね、姉上」  アベーレは言った。  淑やかでか弱い人という印象を持っていたが、案外、行動的なところのある人なのか。  子供の頃に抱いていたイメージとの整合性が取れず、アベーレは少々戸惑った。 「お屋敷の探検なんて、子供の頃みたい」  楽しさに上擦ったような声でヨランダは言った。 「姉上……子供の頃に探検なんてしたんですか?」 「したわよ」  ヨランダはそう答えた。  美しくおとなしい、誰かが支えなければ立っていることすら出来ない人だと思っていた。  主導権を握られているではないか。アベーレは従姉の背中を見ながら眉を寄せた。
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