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朝食は、固くなった塩なしパンとサラミ、地下の葡萄酒の樽に残っていた葡萄酒だった。
厨房の炉部には火がなかったとヨランダが言っていた。
火打ち石がどこにあるのか定かではないので、結局、調理の必要のない食材だけをヨランダが皿に並べ運んでくれた。
食堂広間のテーブルに向かい合いに並べられ、食器だけは高級なものの、寒々として香りも立たない朝食を、アベーレは仕方ないかと苦笑して見た。
「火があれば、スープくらい作れそうなんだけど」
ヨランダが、細い形のいい指でパンを千切った。
「……姉上が作るんですか?」
「だってアベーレ、作れないでしょう?」
にっこりと笑いヨランダは言った。
悪気があって言っている訳ではないのは分かる。だがアベーレは何かショックを受けて眉を寄せた。
こんなことなら厨房に出入りし、料理長か女中長あたりに調理を教わっておくんだったかと思った。
「厨房の作業台にあったお肉も、早めに塩漬けなり何なりしておかないと」
「塩漬けにする程あったんですか?」
アペーレは声を上げた。
先程ヨランダが朝食を運んだ際も、厨房の近くへは行かなかった。
幼少の頃から入るべきではないと教えられたため、入ることに背徳感すらあった。
「伯父様と三人で食べるには、中々食べ切れないわね。でも腐らせるのは勿体ないし」
パンを千切りヨランダは言った。
「一体、何の肉ですか」
「猪だと思うのだけれど」
ヨランダは言った。
「作業台に三つくらい塊で置いてあって。血抜きもしてあったし、皮も剥いであったので助かるけれど」
「誰かが下処理をしていたんですか?」
葡萄酒を口にしながらアベーレは言った。
「伯父様、誰か使用人を連れていらしてたのかしら」
ヨランダは言った。
「こんな状況で付いて来てくれるとは、随分と忠義の者だな」
アベーレはそう言い、ワイングラスを置いた。
「ありがたい方ね」
ヨランダは微笑した。
「ありがたいですけど……」
空になったワイングラスのステムを二、三度弄び、アベーレはテーブルの上を見回した。
酒瓶を見付け手を伸ばした。
「その使用人も、伯父上とともに帰っていないことになるのですか」
「夕べは、とうとう帰っていらっしゃらなかったわね、伯父様」
ヨランダは、上品な仕草で薄く切ったサラミをパンに乗せた。
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