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≪ミハラン(後半)≫第128話 各国の情勢③
プランツ革命政府樹立宣言から9日目。
ここはセルテンの町である。
≪レミリア三騎≫のアルムはある者と電話をしていた。
「そうか……約半数は残っていると。ではプランCで行こう。山賊たちを使って、実行するのだ」
『かしこまりました。これよりプランCの実行にかかります! 』
と、電話越しから声が聞こえてくる。
「よろしく頼んだぞチューリップ」
そう言って、アルムは受話器を切ったのである。
そして、またダイヤルを回した。
「もしもし。アルムだ」
『こちら、タンポポ』
先ほどのチューリップ共々、タンポポとは呼び名であり本名ではない。
「マナガーシ騎士団の動きに変わりはあるか? 」
『いえ、今のところ目立った動きもありません』
「そうか。ではプランEを実行せよ」
アルムはそう言って受話器を切った。
「アルムさん。マナガーシ騎士団国に動きはありましたか? 」
エミリがそう訊ねた。
「いや、【マナガーシ地方教会騎士団国】に動きはなかったようだ。であるからこそのプランEなのだがな」
と、アルムは答えた。
「プランE……ですか」
「エミリは知らないか。まあ、俺の出来ることは頑張ってやるだけだ。具体的に言えば【マナガーシ地方教会騎士団国領内】を山賊を使って荒らしまくる」
「荒らしまくって教会騎士団の戦力を分散させるとかですか? 」
と、エミリは言った。
「それもある。だが、【マナガーシ地方教会騎士団国領内】の各地を陥すことで、彼らはプランツに来ようとはしなくなるだろう? ただ山賊の数にも限りあるから、制圧後は直ぐに撤退させて別の場所を陥しに行かせる算段ではあるが、それでも国内に留まらせるという目的は達成できるだろう」
「アルムさんも、そこまで考えていたのですね」
「何もせずにいる結果、レミリア様に迷惑をかけて往復ビンタを受けるのも嫌だしな」
アルムは【マナガーシ地方教会騎士団国】をもっとも警戒していたので、この国に対しては色々と策を練ったのだった。
ただ、アリバナ・マライツ・エザレムの三国による突然の同盟締結という事実には対処してきれていなかったのである。
これがまた彼にとって頭痛の種となっていた。
そして、アルムはまた電話かけたのである。
「もしもし。アルムだ」
『アジサイです』
受話器の向こうの人物は、ボソッとそう言った。
「接触し支援した候補者たちは大丈夫か? 」
『誰も死んでおりません』
またボソッと言う。
「そうか。では選挙戦と例の調査について、引き続き任せた」
そう言ってアルムは受話器を切る。
「プランツでの選挙だが、アジサイがいうには、こちらで用意した候補者は全員無事だそうだ。まあ、雇いまくった傭兵団を候補者たちの護衛に回したのが功を奏したのかもしれない」
アルムの息のかかっている候補者たちには、5人ずつの護衛を付けていた。
「確か、プランツの選挙戦では候補者たちの事故死が多発しているそうですね? 」
「ああ。恐らく暗殺だろう。誰がどういう目的で行っているか、アジサイには引き続き任せたところだ」
※
同じく、プランツ革命政府樹立宣言から9日目。
アリバナ・マライツ・エザレムの三国同盟締結に伴って、アリバナ王国の王都周辺には至るところに野営地が出来ていたのである。
三国の王国軍が結集したからだ。
その数として、
アリバナ王国軍 900名
マライツ王国軍 700名
エザレム王国軍 400名
以上を合わせて合計2000名になる。
もちろん、各国ともプランツ革命が起きた手前、全ての兵力を根こそぎ集めて来たわけでない。例えばアリバナ王国は1250名程度の兵力はあるのだが、350名は各町や王都に残している。
そして、いわゆる≪教会騎士団国家≫の諸国には通常存在しない地位が、今回設けられた。即ち≪将軍≫という地位である。
3国がバラバラに指揮を執っては統率がとれないための措置で、将軍の地位に就いたのはアリバナ王国の筆頭兵士長サルベピエールだった。
※
同じくプランツ革命政府樹立宣言から9日目。
この日初めて、【ミハラン砂漠サソリ大王国】側と国防軍との停戦交渉が始まるのだった。
そのためミハラン方面軍司令官であるボブ陸軍大将は、バドリオ陸軍中将とパーシヴァル憲兵隊中将を引き連れて、ここ一帯に於ける【ミハラン砂漠サソリ大王国】側の責任者のところへやって来たのである。
「ようこそ。ボブ・テイライダー大将閣下。私は【ミハラン砂漠サソリ大王国】の【南方軍管区】を治める将軍であるチュノサソ・リーノです」
チュノサ・リーノ将軍は、シタノサソ・リーノ将軍の兄にあたる人物だ。
「こちらこそ。私がボブ・テイライダーです」
社交辞令が終わり、そして交渉が始まる。
「さて、テイサンダー閣下。単刀直入に申し上げる。貴軍は、我が国の領内から速やかに撤退せよ」
と、会談が始まって早々にチュノサ・リーノ将軍が言い放つのであった。
これにボブ大将に同席している1人の士官が大声をあげる。
「そんなこと出来るか! 我が軍を見くびらないでもらおうか」
「落ち着け、ヨーナス大佐。リーノ閣下……この度の戦闘は貴国の軍事的挑発によってもたらされた。その賠償金をいただくまでは現占領地域の占領を継続するつもりである」
ボブ大将は、その士官を窘めつつも、鋭くそう言った。
「我が国には140万近くの兵がいる。一斉に進軍し貴軍と交えることも可能だ。さらに我が国は事態の収拾のため、同盟国の天使軍の駐留を要請した」
チュノサソ・リーノ将は自国の兵力と天使軍の存在をボブ陸軍大将に示したのである。
当然これは、【ミハラン砂漠サソリ大王国】側にとって、交渉を有利にするためのことなのだ。
「あくまでも貴国は、自らの非を認めず力でねじ伏せようとしますか。我々は屈しませんよ。今日はこれまでとしましょう。失礼します」
ボブ陸軍大将はそう言って、席を立ちあがるのであった。すると、一緒にいた2人も立ち上がる。
結局、初日の交渉は僅か数分の会談で失敗に終わったのだ。
そして帰り際、ボブ陸軍大将は決めたのだ。即ち国防大本営に大規模な増援を要請することを。もはや天使軍との全面戦争が再び引き起こるか否か、その瀬戸際の状況になりつるあった。
当然、このことを魔王ティアレーヌは知る由もない。
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