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第8話 早くもロムソン村を発つ
翌日。
「と言うことで、傭兵団が魔物討伐の依頼を引き受けたみたいだし、私たちは早いところ【魔王領】へ向かおうと思うのだが」
と、私は朝食を食べながら3人に提案した。
「それに、【魔王領】に入ったからと言って直ぐに帝都……あ、いや魔王城に到達するわけでもないし、戦闘経験を積む面での心配もないかと思うぞ」
【魔王領】は決して狭いわけではない。
少なくともここ、【アリバナ王国】よりかは広い国土を有する。【魔王領】に到達するまで殆ど戦闘を行わなくても、そこから魔王の都までの道のりは長いのだ。だから、【魔王領】に到達して以降も魔王の都まで向かう間に、戦闘を積ませることもできるであろう。
もっとも魔物と戦って経験を積んだとしても、果たして対人戦で役に立つのかは疑問だがな。
聞くところによれば【教会】から選任された勇者たちは、毎度のごとく魔物としか戦わないという。それでは魔王討伐なんて難しいのではなかろうかと、個人的に思う。
「そうだね。魔物がいつ村を襲撃するのか判らないもんね。いつまでもここに居られるわけでもないし……」
魔王討伐が勇者ユミの帯びた使命であるわけだから、ユミもロムソン村に長居が出来ないことについては理解しているようだ。
私は、てっきりユミが駄々をこねるであろうと思っていたが、そうではなかったようで助かる。
しかし私が少しばかり感心していると、思わぬ人物から反対意見が出た。
「せっかく、ロムソン村まで来たのですよ? 何もせずに帰るのはどうかと思います」
そう言ったのは、マリーアであった。
まさか彼女から反対意見がでるとは思っていなかったが、ダヴィドは私の意見に賛成するだろうし何とかなるだろう(たぶん)。
「自分はカルロ殿の言う通り、【魔王領】へ直ぐに向かった方が良いと考えている」
よし!
これで少なくとも私とダヴィドの2人が≪とっとと行こう派≫となる。
まあ、ダヴィドに対しては昨日私が宿屋に戻って来て早々に説得しわけだがな。
というのも、本当は傭兵団が毒タヌキの死骸を燃やししてしまい判別が不可能だった。
しかし、まず私は「毒タヌキの体を調べたところ、刻印があったのだ」と嘘をついたのである。
そしてその嘘を前提に、魔物使いによる仕業であるものと話をでっちあげた上で、この状況で魔物使いと戦うことになれば、経験の浅いユミがいると危ないと言って説得したのである。
さらに「【アリバナ王国】に雇われた傭兵団と偶然にも出くわた。色々と話をしたところ、ロムソン村の件で雇われたらしい。だから後は彼らが引き受けてくれることになった」とも言った。
嘘も方便だ。
さて、ダヴィドも賛成したのだ。
後はユミさえ説得すれば3対1に持ち込めるだろう。
だが……。
「ダヴィドさん! 貴方はそれでも王宮兵士長なのですか」
と、ダヴィドに対してマリーアは言ったのである。
しかも王宮兵士長のプライドを刺激するかのような物言いで、とても厄介なことになりそうだ。
「そ、それは……」
案の定、ダヴィドは動揺しているようだ。仕方がない、私も何か言っておこう。
「マリーア。傭兵団が討伐する以上、問題はないはずだ。ここでわざわざ王宮兵士長がどうのこうのと言うのも少し変だと思うが? 」
「カルロさんって冷たい人なのですね」
と、マリーアは直ぐに言葉を返した。私に対しても心を動揺させようと『冷たい人』などと言ったのだろうか?
まあいいや。考えても無駄だ。
「これは周知のことだが、前に選任された勇者が嵌められたという噂がある。だからこそ、冷酷な人間であると言われような対応をとるのは、仕方ないだろう」
「今この話に、前の勇者の話は関係ありますか? 」
「まあ、直接的には関係ない話だな。だが、この勇者パーティが今後どう行動するか、そのスタンスを決めるためには、前回の勇者がどうなったかという話も知っておくべきだろう。そして今まさに、この勇者パーティがどう行動するか検討すべき時だと思うが? 」
今まさに、ロムソン村は傭兵団だけに任せるか否かの話し合いをしているわけだ。
「確かにそうですね……」
と、マリーアも頷いた。
「傭兵団は【アリバナ王国】に雇われてロムソン村に来たのだ。だから後は【アリバナ王国】や傭兵団に任せようではないか」
傭兵団が【アリバナ王国】に雇われたという話は、そういう設定に過ぎないが、傭兵団がロムソン村に滞在するのは事実である。
「まあ良いです。3人の判断に任せます」
ようやく、マリーアは諦めてくれたようだ。それから、ユミも説得に応じてくれたので、早速私たちはロムソン村を後にしたのである。
まだ早朝と言ってもよい時刻だ。
もしかしたら、今日中に西ムーシの町に着けるかもしれない。
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