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第96話 【魔王領】の領内を移動する
ユミとの話し合いを一旦中断し私たちは、国防軍を護衛に付けながら、魔王城を目指して関所を出発した。
そして移動手段は、国防軍が提供してくれた数台の馬車である。
その数台あるうちの1台に、私はユミと2人で乗っていた。ダヴィドとブルレッド君は気をきかせてくれたのか、別の馬車に乗っている。
「結局のところ、カルロってどういう立場だったの? 」
「それは今は言いたくない。いずれ……近々話すよ」
今このタイミングでは言いたくない。
本当にすまない。
「わかった。カルロがどういう立場だったのかは大体の予想はつくけど、カルロも近いうちに話すと言ってくれたし、これ以上は聞かないことにするね」
「すまない。ありがとう」
それにしても……既に関所を出発してから小一時間が経っているのだが、相変わらず天使共の気配を感じているのだ。そしてこの気配は弱まることがない。
と言うことは、天使共はこの【魔王領】にまで侵入してきているということだ。
全く国防軍は何をやっているのだ!
「カルロ。また何か一人で考えこんでいるの? 」
と、不意にユミがそう訊ねてきた。
「いや……特には」
私は咄嗟にそう言った。
「さっき関所で聞いた話だと、確かカルロは現在進行形で天使たちに付けられているということだったよね? そのことで悩んでいるの? 」
だが、ユミにはお見通しだったようだ。
もう潔く、ユミに白状することにしよう。
「ま、まあな。ユミの言う通りなのだが……どうやら天使共は【魔王領】にまで侵入したようなのだ。どうしたものか」
「やっぱりそうなんだ。でも気にすることはないと思うよ。うまくは言えないけど、戦闘力の高い天使たちなら、もしカルロを殺めようと思ったら今すぐにでも殺せると思うの。だけど、こうして今すぐには行動を起こさないと言うことは、戦闘力はそこまで優れていないということだと思う」
「そうだな……」
確かに、言われてみればそうなのだが……。
まさか、ユミにこのようなこと言われてしまうとは、思ってもいなかった。
やっぱり、ユミの精神的というか知識というか、ともかく成長があまりにも早い気がする。どうしてこんなに成長が早いのだろうか。
やはり関所での戦闘がユミを成長させたのだろうか?
だが、明らかに何かがおかしい。
ユミを見て、私はそう感じた。
「当面はスルーして良いと思う」
「そうだな」
一先ず、付けてきているであろう天使共のことはユミの言う通り放っておくことにしよう。
「ところで、マリーアのことなんだけどさ……」
そう言えばユミにはマリーアがいるとされているセルテンの町まで行くのために、あえて【魔王領】を迂回していると言ったな。
「マリーアがどうした? 」
「ちょっと気になってね」
「マリーアは攻撃魔法士だろ? それがどうしたのだ」
実は魔王軍のスパイであるとはこのタイミングでは言うべきではないだろう。ユミのことなので、「仲間を疑うの!? 」とか言いそうだからだ。
「マリーアは、まお……、あっ、いや、怪しいと思うの」
ほう?
マリーアが怪しいという言葉を、ユミから聞くことになるとは思ってもいなかった。しかし、どうしてそう思ったのか気になるところだが……。
「どうしてそう思うのだ? 」
私はユミにそう訊ねた。
「例えば、西ムーシの町に到着する前日に泊まった宿屋から、1人で抜け出すマリーアを見かけたりしたしね」
なるほど。
私が下級天使10人をヤッた日のことだろう。
「まあ、これはカルロもだったけどさ」
「私が夜抜け出したことも、知っていたのかよ」
「うん。カルロが1人でどこかに行くのも見ていたし、それに次の日の朝、2人とも眠そうだったもんね」
何だかんだで、ユミも他人をよく観察しているものだ。
それと私たちがカルロの私用のために西ムーシの町で待っていたときの話だけど、マリーアが誰かと王都アリバナシティ方面へ行く馬車に乗る姿も見たし……ただのお出かけではなさそうだったよ」
「よく見てるなユミも。そこまで見ているとは、凄いよ本当に」
なるほどな。
私が知らなかっただけで、マリーアは尻尾をみせていたわけか。
そして……
「褒めてくれてありがとね。それで、ここからが肝心なのだけど、マリーアはひとまず無視して魔王城を目指しても良いと思うの」
と、ユミが言ったのである。
「怪しいという根拠だけで、もうマリーアは助けないつもりなのか? 」
私としては内心、今ユミの言ったことに万々歳であるのだが、彼女の真意も確かめたいのでそのように聞き返したのであった。
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