≪ミハラン(後半から)≫第98話 アレックス立往生する。そしてミハランでの戦闘

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≪ミハラン(後半から)≫第98話 アレックス立往生する。そしてミハランでの戦闘

 先ほど、ディアナがロワール大佐を追及したところ、ついに彼は自身の執務室に逃げ出したのである。  もう少し追及して欲しかったところだが、一応収穫はあった。  それは、彼の発言中にあった≪特別旅券≫というものである。  果たしてこの≪特別旅券≫とやらが、どういうものなのであろうか……。  先ほどのディアナとロワール大佐のやり取りを聞いた限りでは、≪特別旅券≫があれば、その所持者の連れの者たちは、旅券を提示しなくても良くなるいう代物なのだろう。  しかしそれが一体、どういう者に付与される物なのか俺は気になった。 「とりあえず、レミリアには今回の件の報告と、≪特別旅券≫とやらの照会依頼を済ませたわ。私たちは国防軍発行の旅券も持っていないから、魔王軍所轄の国境地帯まで移動しなければならないわね。まあ、この中の内の誰かが≪特別旅券≫とやらを持っていたら話は別かもしれないけど」  そうだった。  俺たちは、国防軍発行の旅券を持っていない。  だから、国防軍所轄の関所を通過することができないのである。  魔王軍としての任務を帯びている我々は、関所を通らずとも越境できるわけだが、国防軍管轄の国境地帯は、勝手に通過すると面倒なことになるだろう。  そう言った面倒を避けるためには、魔王軍管轄の国境地帯を通過する必要がある。  ところで、現状俺たちは、余裕がないわけではない。  まさに眼前と差し迫った緊急事態であればともかく、【魔王領】の内側からの増援ならいくらでもいるわけだし、魔王軍管轄の国境地帯まで移動して時間を消費しても問題はないだろう。 「まあ、なるようになる。そう思って進みましょう」  俺はディアナを励ますように、そう言った。 「そうね。ユミたちが国防軍の関所を通ったせいで、雇った傭兵たちが無駄になってしまったけど、プランツ制圧を有利にしたわけだし、結果オーライだね」  そういえば、大量に傭兵を雇って国境地帯に張り付かせていたと聞いている。その傭兵たちも含めた魔王軍が、王都プランツシティに迫ったとしたら、たちまち【プランツ王国】も降伏することだろう。  そもそも、主力を失った【プランツ王国】に、ろくな抵抗など出来ないと思うが……。 「ディアナ校長。学園からも増援を要請したら如何でしょうか! 勇者を捕らえるには元勇者たちがもっとも有効かと思います」  と、不意に元勇者3人組の1人がそう言った。 「勇者の心を折るには、魔王側についた元勇者の存在は有効だとは思うけど、国防軍が絡んでいる以上、もはやこれは単純に対勇者の問題ではないのよね……」  ディアナの言うとおり、もはや国防軍と魔王軍の政治的な紛争に発展している。まあ、個人的にはこの事案をきっかけに、一部で囁かれている国防軍の汚職疑惑について次々と洗い出せると良いと思うところだ。 「わかりました。口を出してしまい申し訳ございません」  元勇者の1人が言葉通り、申し訳なさそうに言った。 「でも、ロンの言うとおり、学園にも電話をしておくとしましょう」  ディアナがそう言うと、その元勇者の表情は少し明るく晴れたように見えた。 ※ 「ゴブガ大佐! 」  そう叫んだのは、第53ゴブリン人連隊の副官であった。 「なんだ! わざわざ大声で……ああ、緊急事態かね? 」 「はっ! 一昨日の敵軍前哨基地制圧によって、戦闘は止んでおりましたが、本日また第1大隊が進軍を開始しました」 「なんだって!? これ以上の進軍は流石に拙い。一昨日の件は、方面軍司令官もお許しくださったが、今回ばかりは戦略上のリスクが高まる」  ミハラン方面軍司令部は、当然ながら国防大本営からの即時停戦勧告を受けていたわけだが、同時に賠償金請求についても交渉せよとの命令を受けていたのだ。  そこでミハラン方面軍司令部としては、【ミハラン砂漠サソリ大王国】側の前哨基地を制圧することによって、賠償金に関する交渉が有利になると考えたのである。もちろん、国防大本営の即時停戦勧告は、全く以て無視しているわけだが。  だがこうして、最前線の部隊はまたもや暴走し進軍を開始してしまったのだった。 「大佐。恐らく、また敵軍からの攻撃があったのでは? 一昨日も敵軍からの攻撃があり、それに応じる形で、突撃が開始されました。今回の進軍も、また同じような事案が発生したためかと」 「敵の攻撃を受けて我が軍が進軍か? まるで敵の挑発に、まんまと乗っかっているようにしか感じないがな。まあ、敵としては当然奪還を目的とする攻撃なのだろう。そもそも応戦すること自体は禁じておらん! その場で防戦に徹すればよいものを。とりあえず、ミハラン方面軍司令部に至急電話をつないでくれ」 「了解いたしました」
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