第102話 ブルレッド君からの報告と、国防軍の闇

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第102話 ブルレッド君からの報告と、国防軍の闇

「ミハラン砂漠での戦闘は、まるで収まる気配がございません。また魔王軍四天王レミリア率いる軍団とプランツ王国軍主力が、ついに衝突しました。プランツ王軍主力が壊滅し、そして王都プランツシティでは革命政権が樹立されたとか……」  私たちは今、馬車駅で休憩中の最中であった。  私が1人でビールを飲みながら、【魔王領】の全国紙の1つであるモーニングサン新聞を読んでいるところを、ブルレッド君に声をかけられたのである。 「ミハラン砂漠での戦いは収まらないのか」 「ええ。しかも当初は国防大本営内では即時停戦の主張が強かったのですが、【ミハラン砂漠サソリ大王国】との戦闘は、我々の同盟国からの対天使参戦要求を拒否する言い訳になるという理由から放置すべきという意見も次第に高まっております。元帥閣下はあくまでも即時停戦を求めているとのことですが」  確かに、対天使参戦要求を拒否する理由になるかもしれないが……。  いや、むしろ天使側に攻撃の理由を与えただけではないか。【ミハラン砂漠サソリ大王国】は天使共と同盟関係にあるのだから。  そう思ったが、ブルレッド君に言っても仕方ないので口にはしなかった。 「そうか。とりあえずは元帥に任せるしかないな。それで、王都プランツシティで革命政権だって? 革命というとブルレッド君たちの十八番なお仕事だが、何か関係しているのか」 「ええ。国防大本営からの要請に基づき計画し実行したと、王都プランツシティにいる部下より報告がありました。王女テオドラは落ち延び、王太子ギヨームは捕縛されたとのことです」  何だよ。  私は聞いていないぞ、そんなこと。 「国防大本営としては、革命をさせると何か都合が良いのか? 」 「お上の思惑なんぞ、僕には判りませんよ。ただ趣旨としては魔王軍を助けること、とのことらしいですね。プレゼントするとか何とか……」 「魔王軍を助ければ、まあ国防軍としては貸しを作ったことになるか」  それにしても、相変わらず気配は感じるのだ。 「話が変わるが、天使共も【魔王領】に入ったのだろう。ずっと感じる気配の強さが同じなんだ。ユミにこのことを話したら、なんて言われたと思う? 強い天使なら今頃襲撃しているから、襲撃がない以上は雑魚だってさ」  馬車駅に於いても気配がほぼ同一なところ、奴らは律儀にもその場で待機でもしているのだろうね。 「そのようなことを言うとは、勇者という立場を誇りに思っていたユミさんにしては、らしくもないですね」 「ああ」  本当にそうだ。一体彼女はどうしてしまったのだろうか? 「もしかしたら既に……」  と、ブルレッド君は小声で言った。 「今何か言ったか? 」 「いえ……。おや、モーニングサン新聞も一面の見出しは≪プランツ決戦!≫ですか」  こいつ話題を逸らせて誤魔化したな。  まあ、良いか。 「一面は、どこの新聞もレミリアとかいう四天王の功績を讃えているのだろう。ところでね、この小さな記事をどう思う? 【あの戦争と国防軍上層部 第2弾】だってさ」 「カルロさんからすれば、やはりそういう記事が目につきますか」 「まあな」  記事の内容はこうだ。  ――― あの戦争と国防軍上層部 第2弾 ―――  前回の第1弾では、先の戦争の大まかな経緯や経過などをお伝えすることで終わってしまいましたが、【あの戦争と国防軍上層部】編集担当としては国防軍上層部が隠す様々な事実を暴きそして世間にそれらを伝えることを至上命題としております。  さて、今回は読者の皆様へ疑問を投げかける回とします。  皆様の中にも既に疑問に思っている方もいると思います。  家族が戦地へ赴き、軍当局から戦死や行方不明になったという報告もなく帰ってこないご家庭の方なら尚更のことです。  まず国防大本営と国防省が正式に発表しているゴブリン人以外の戦死者数が2万2849人で行方不明者が8万5623人で、合計するとおよそ11万人弱となります。  そして我々は戦争遺族の会に取材を行い、そして判ったことがあります。  軍当局から戦死や行方不明になったという報告もなく、自宅に帰ってこない将兵が、戦争遺族の会に報告されているだけで、なんと3万件以上もあるのです。  戦争遺族の会に報告されている数だけで、3万件以上です。  これは一体どういうことなのでしょうか?  これほどの数を、戦死者或いは行方不明者として計上しない国防大本営及び国防省の思惑とは!?  今回は以上で幕を閉じたいと思います。  次回をご期待ください! ――― 続く ―――  という内容だ。  第1弾の内容は知らないが、先の戦争の大まかな経緯や経過などの説明で終わるのなら、わざわざ読む必要はない。 「あらら、ここをマスコミに噛みつかれましたか。戦争遺族の会がマスコミに調査を依頼したということなのでしょうかね? そして結果、こういう記事に繋がったのかと」 「どうだろうかな。仔細は判らないが、少なくとも我々が隠していることは、いずれ公にされると思っている。その時、我々がどう立ち振る舞うかを考えるべきだ」  さて、そろそろ馬車の出発時刻だ。乗り遅れないよう急がねば。
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