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第103話 愉快なカルロと、ゴブリンの襲撃
私たちを乗せた馬車は、走り続けている。
魔王城を目指してただひたすらと。
「もう一杯くらい飲んで来ればよかったかな」
馬車を乗り続けるというのは、とても暇で退屈だ。それを見越して先ほどの馬車駅での休憩時にビールを一杯飲んだのだが、どうにも中途半端な感じがしてならない。もう一杯飲めばちょうど心地よく酔いも回ったはずだと思うのだ。
これでは駄目な感じだ。
「カルロ……お酒臭いよ? 飲んだでしょ」
とユミが言う。
「ちょっと一杯な」
本当に一杯しかやっていないものだから、気分はそこまで爽快ではない。
「まあ程々にね」
それにしても、天使共の気配が少し弱まった気がするな。
ついに、疲れて追いつけなくなってきたのだろうか……。
そう考えると、気持ちが晴れて来たぞ!
「馬の鳴き声一斉に♪ 関所を出でた我ら♪ 黙々魔王城を目指す♪ ノロマな馬車で何日かかるのか♪ 後で急行馬車に乗り換えよ!♪ 」
後で急行馬車に乗り換えよ♪
後もう一杯飲みたいな♪
天使も私を恐れて、どこかへ行ったぞ万々歳♪
うん!
気分は爽快だ!
「ちょっと声がデカすぎるし、最後の方とか歌詞思い付かなくて鼻歌になってるし? 」
おっと……爽快になったもんだから、アドリブで変な歌を作って歌ってしまっていたようだ。
嗚呼駄目だ。止まらない!
「塹壕を出でて敵を斃せば♪ 残党共は逃げていく♪ 天使共は逃げていく♪ 」
うん!
天使は逃げた!
もう気配など極わずかにしか感じないぞ!
「興奮しすぎだね。これは何を言っても無駄かも。こんなカルロは初めて見たかな……」
おっ?
馬車が停車したぞ?
「なんだ馬車が止まってしまったようだが」
「そうみたいだね。一体どうしたのかしら? 」
外に顔を出し、前方を見たものの何も分からなかった。
ただ強いて言えば前を進んでいた馬車も停車しており、この馬車だけに何かがあったというわけではないようである。
「カルロさん! 」
そう叫んで走ってきたのはブルレッド君だった。
「一体何があったんだ! 」
「徒党を組んだ野性のゴブリンが、正面の道を武装し塞いでおりまして。一個分隊とカルロさんが雇った傭兵団が戦闘準備中です」
「野性のゴブリンか。交渉してどうにかなれば良いがな」
「カルロさん。貴方が≪ゴブリン人≫を慕っていても、野生のゴブリンは≪ゴブリン人≫と姿形が同じなだけです。誤魔化されないでください。奴は知能のない虫けらです」
そうかよ。
そのゴブリン人たちだって、普通に野生のゴブリン同士を交配させて、単に徹底した教育を施しただけの存在だ。
即ち、仮に野生のゴブリンの赤ん坊を攫って、同じく徹底した教育を施せば結果は同じことだと思う。
ともあれ、ブルレッド君の言うとおり、目の前の現実に対して交渉など無意味だろう。
「そうだな。交渉など無意味だ。実力行使で拘束すべきだな」
私はブルレッド君の意見に納得し、そう言った。
「拘束してどう為さるつもりで? 」
「この辺りを管轄する街道保安官にでも身柄を引渡せば良いだろう。まあ、最終的には担当検事が起訴して刑事裁判になることに期待しよう」
「あんた本気で言っているんですか? 」
と、ブルレッド君が、まるで私を軽蔑するかのような表情でそう言った。
「おかしいことを言ったか? ゴブリン人も人だ。キミこそ種族ごとに差別しているのではないか」
「まあ良いです……。とにかく我々には敵対行動を取るゴブリンを拘束するほど余裕はありません。ですから、実力行使の結果、相手のゴブリンが死ぬのは致し方ないことですよね? 」
「好きにしろ。だが、ブルレッド君もよく考えて行動することだ」
そう言えば、ユミの奴は戦闘経験が殆どなかったか。
国防軍の兵たちもおることだし、思い切ってユミにもゴブリンたちと戦わせてみよう。ユミも今のところは馬車酔いはしていないようだしな。
「ユミも戦闘に参加してみるか? 馬車酔いして体調が悪いなら話は別だが。ブルレッド君も、ユミに戦わせることに異存は良いな? 」
「カルロさんがそう仰るのであれば、僕としては異存はございません」
「私が? 良いよ。だけど後で私の言うことを聞いてくれる? 」
ブルレッド君はともかく。
ユミの奴め……。何が「言うことを聞いてくれる? 」だ。まあ良い。内容次第では私自身がヒステリックを演じて対処してしまえば良い。
「わかった。まあ頑張って来い! 昨日、私を驚かせたばかりだ。期待しているぞ」
「うん! 任せといて! 」
そう言うとユミは馬車の外へ飛び出し、小走りで向かうのであった。
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