第9話 魔王軍のスパイ……そしてカルロに迫る謎の刺客

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第9話 魔王軍のスパイ……そしてカルロに迫る謎の刺客

 (魔王軍スパイ視点)  ロムソン村付近の某所 「例の勇者の一行なのですが、村を早々と出てしまいました」  そう報告してきたのは、俺の部下である。 「ロムソン村を魔物が襲撃するという噂が広まったためか、どこか傭兵団が討伐の依頼を受けたとかで来てしまったみたいです。恐らくですが、勇者一行はその傭兵団を信頼して、村を出たのでしょう」  なるほど。  部下の言う通り、俺は勇者一行を誘き寄せようと、たびたびロムソン村を魔物に襲撃させた。だがその結果、噂が広がり過ぎたためか、余計な者たちまでもが来てしまったのであろう。    とはいえだ。  たかが1つの村ごときに、傭兵団が引き受けるような程の報酬を出した者がいたとして……そいつが一体何者なのか、俺は気になった。  少なくとも村レベルでは、財政的にきついはずなのだ。  それにこの大陸における国の為政者は、どうも【村】など簡単に見捨てる傾向にある。そのため、国王が雇ったにしては少し疑問を感じるのだ。 「今後は想定外のことにも対処できるよう、心の中だけでも準備をしておこう。前に任命された勇者の時は、勇者を除くパーティメンバーが全員魔王軍の者であるにも関わらず、勇者は【魔王領】内に到達してしまった。魔王軍四天王同士のくだらない遊びのせいでな」 「そうでしたね。勇者が【魔王領】に辿り着けるか否かで賭けているわけですものね」  そう。  四天王たちは、魔王ティアレーヌ様に仇為す勇者を賭博の道具として利用しているのだ。結果として、少なくとも【魔王領】に到達するまでの間は、魔王軍同士で互いに妨害しあうことになるのである。    しかも魔王ティアレーヌ様も、現場の部下たちにとって良い訓練になるという理由で、お許しになっているのだ。  まあ、四天王としては部下の頑張りにカネを賭けているようなものか。 「で、今回俺の上司は【魔王領】には到達できないという方に賭けたわけだ。と言うことはその部下である俺は……」   「勇者一行が【魔王領】に辿り着く前に拘束するか又は始末するってことですよね? 」 「そう言うことだ。俺の推測だと、勇者が【魔王領】まで到達できるほうに賭けた四天王の部下が、勇者一行に交じっていると思う。もちろん推測どおりだとしても、遅れをとるつもりはないが」  今回は使える魔物が、毒タヌキの6匹しか保有していなかっために、あっさりと対処されてしまった。  しかも、俺は直接戦闘には向いていないので、新たな魔物を使役させるための魔物を探す必要があるのだ。その魔物を見つける間のために≪ロムソン村に長居させて時間稼ぎをする方法≫も見事失敗したのである。  とはいえ、多少の収穫もあった。  勇者一行はロムソン村が魔物に襲撃されているという噂を聞き、放置できないと判断して村までわざわざやって来たのは事実だ。  つまり、これからも≪○○村が大変なことになった≫と言った類の噂を広めて、連中を誘き寄せることは可能ということだろう。    俺は早速、次の策を練ることにしたのだった。 ※ (主人公視点)  ロムソン村を朝早く出発した私たちは、昼過ぎには王都アリバナシティに到着することができた。  そこで軽く昼食を済ませた後、すぐに王都アリバナシティを発ったのであった。ここから歩いて12時間程度かけて進んだところに、【プランツ王国】との国境沿いにある西ムーシの町があるのだが、今日はその途中……即ち徒歩6時間くらいの場所にある馬車駅付随の宿屋で、夜を明かす予定となった。  本当は駅馬車を使えば、途中の馬車駅での乗り換え時間も考えて、6時間から7時間程度で西ムーシの町に着くのだが、マリーアの説得のせいで、3対1(私)で徒歩での移動となった。  要はマリーアの逆襲だね。これは。  そして……。 「これで6匹目だね! 」  ユミが嬉しそうに、そう大声で言う。    道中に出現する魔物をユミ自身で倒したのが、今のでちょうど6匹目なのだ。  ロムソン村へ向かっていた道中で出現した毒タヌキに比べれば、明らかに雑魚であるから、戦闘経験の浅いユミでも容易に倒すことが出来たのだろう。  もちろん、ユミ以外も各自の判断で通行を妨害する魔物を倒している。  尚、魔物にあえて遭遇する確率を上げるため街道から少し離れたとこを進んでいるのだが、これはダヴィドの提案なのだ。 「カルロ殿は相変わらず、例の刻印を確認しているようだな」  ダヴィドが、ユミとマリーアには聞こえないような小さな声で、そう言った。 「雑魚とはいえ仮に刻印があれば、その意図はともかくして何者かによる行為であることは判るからな」  私も小声でそう答えた。  肝心の刻印付きの魔物だが、今のところ1匹も発見していない。しかも次第に確認作業が億劫になってきたのである。  さらにユミとマリーアは、私が行っている刻印の確認行為を不審に思ったのか気にしているようで、口では何も言わないものの、先ほどから私をチラチラと見てくる。  そして…… 「ま、まさか……」  そしてユミやマリーアの目がある手前、刻印の確認行為を続けるか否か判断しようとしたその一瞬のことだった。私はとても嫌な気配を感じ取ったのである。  後ろを振り向いたが、怪しい者たちが尾行している様子はない。  だがこれは、とても嫌な気配ではあるのだが、同時に懐かしくも感じるものだった。  さて、感じ取れる気配からして、恐らく私を付けているのは10名程度であるだろう。
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