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第106話 ゴブリン人の赤ん坊
「これは……ゴブリン人の赤ん坊か」
一通りゴブリンを斃した私たちは、残党の有無を確認するため、このゴブリンの拠点の探索を引き続き行っていた。
すると、ゴブリンの赤ん坊と思わしきものを見つけたのであった。
私は、その赤ん坊を抱き上げた。
「カルロさん! その薄汚い緑色の生き物を抱きあげないで、早く首絞めて殺してください! 」
ブルレッド君がそう叫んだ。
「ブルレッド君! こいつはまだ赤ん坊だ。きちんとした教育を施せばきっと立派になる」
「赤ん坊とは言え、昨日今日生まれたというわけではありません。ゴブリンの成長は早いのですよ! もう確固たる記憶力もあって今日のことを覚えているかもしれません。無暗に教育を施せば、単なる復讐心で済むものも、変な思想と絡みついて厄介な存在になりかねませんよ! 」
「その時は前線に送り込んでやれば良い。どうせ殺すくらいなら戦争で利用して殺したって良いだろう」
まあ前線に送ると言っても、戦争をやっているか或いは事変が発生していなければ意味はないが。
「良いですか! 例え前線に送ろうが又はその他の対策を講じようとリスクなのですよ? わざわざリスクを負ってリターンはあるのですか! そういうところを、よく考えてくださいね」
いちいちうるさい奴だ。
まだ赤ん坊である。
だから、まだ沢山の可能性があるわけだ。この赤ん坊にはな。
こいつの親に知能が無くとも、こいつが同じとは限らない。
ゴブリンだって人並の脳みそはある。だからこそ教育を施せば、まともな存在になるわけでないか。
「ブルレッド君ね。今度山賊のアジトでも制圧して、そして、もし赤ん坊がいれば殺すと良いよ。なあ? 出来るだろ? 当然対象となる種族は【魔王領】基準でいうところの、エルフ族かスタンダート族か、或いはドワーフ族の山賊だぞ」
「ですから! スタンダートやエルフ、そしてドワーフに比べてゴブリンの成長は早いのですよ? 分かっていますか? 」
うるさい!
「ブルレッド君! これは私の勝手だ。お前は分隊と共に探索でも続けてろ。もちろん成人したゴブリンでも居たら好きにしたら良い」
「くっ! 了解しました。このむの……いえ何でもありません! 」
「何だこの野郎! 私が無能だってか? もっとはっきり言ってみろ! ほら、無能だって言えや! 」
「分隊と共に探索を続けますので、失礼します」
そう言って、ブルレッド君はこの場を去った。
駄目だ。これは頭を冷やさなければ。
「カルロ……。ブルレッドさんはカルロを心配してくれているのだと思うわ」
なんだ。
今度はユミか。
「私はこの赤ん坊を殺すつもりは無い」
「うん。私も賛成だけど、でもブルレッドさんと喧嘩をするのはどうかと思うよ。怒らず毅然とした態度で自分の主張をすれば良かったのに……。まあ、お酒も結構入っているのかもしれなけどさ」
ユミの奴……。
とうとう、母親みたいなことまで言いだしやがって。私がユミを養子にするというよりは、むしろ私の養母にでもなってもらった方が良いかもしれないね。
まあ≪魔王領民法典の第四編≫の定めでは、ユミは私より年齢が低いから無理だが……。
それにしても、まさかユミがこの赤ん坊を育てることに賛成してくれるとは思わなかった。これは意外だ。
「すまなかった。少し頭を冷やすよ」
「うん。ところでその赤ちゃんの名前は決まっているの? 」
「あっ、いや。今さっき拾ったばかりだしな」
「そうなの? てっきりカルロは自分の名前を付けるかと思っていたけど……」
おいおい。私はそこまでナルシストではないぞ全く。私という人間は、ユミから見ればそういう奴に見えるのか。
「自分と同じ名前を付ける奴がどこにいるかよ。精々、自分の親と同じ名前ならよく話に聞くけどな」
「ふ、普通ならそうだよね」
とユミが言う。
まるで、私が普通ではないかのような言い方だな。
まあ、私はもはや≪普通≫には戻れない存在であることは、きちんと自覚しているが。
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