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第107話 鉢合わせ
(魔王軍四天王レミリア視点)
カルロが、実は1杯どころか3杯もビールを飲み(本人は、1杯しか飲んでいないつもりでいる)、馬車の中で酔って浮かれているところを、ゴブリンから襲撃を受けていた時のことである。
レミリアは≪レミリア三騎≫の1人であるヘンリーと共に、魔王城を目指して早馬で以てして移動していた。
その理由は、国防軍の関所をユミたち勇者一行が通過した件で魔王ティアレーヌが四天王会議を召集したからである。
「今回は勇者一行の方が、一枚上手だったわけだね」
とレミリアが言う。
「予想を遥かに上回る展開になっている気がしますね! 」
そして、あくまでも呑気なヘンリー。
レミリアはそんな彼を嫌いではなかった。
「そうね。困ったことに今回は、国防軍が勇者一行と関わっているらしいし。先ほどティアレーヌ様と電話を通じてお話をしたけど、勇者一行の1人が持っていたとされる【特別旅券】とかいうものは、どうやらその殆どが国防軍の将軍級の者たちに付与されるようなものらしいわね」
「要するに、この旅券を持っている人の殆どが国防軍の将軍級ってことですよね? 何だかこれは面白くなってきましたね」
「ええ。面白いかどうかは別として、単に勇者一行が国防軍管轄の関所を通ったというだけの話ではなくなってきたわね」
当然≪特別旅券≫の持ち主の素性を調べることになる。
「もし国防軍の将軍だったとすれば、大変なことになる」
「そうですね! 俺たち魔王軍は国防軍の責任追及のために大騒ぎになるのでは? 」
「国防軍のスキャンダルとして挙げられそうだけど、刺激しすぎて国防軍との対立を深めるわけにもいかないし……困ったわね」
魔王軍の最高幹部の1人であるレミリアからすれば、まさに頭痛の種になる問題になりつつあるのであった。
「ところで気になっていたのですが、どうして遠回りをしているのです? 」
不意にヘンリーが言った。
「それは簡単な話。勇者一行が通っているであろう街道に目星をつけたからよ。国防軍の関所を通ったとすれば大体の経路は判ってくるでしょ? ディアナの推測も信じれば勇者一行はティアレーヌ様の下まで直行するはずだし」
「なるほど」
「もちろん。ダメで元々よ。遠回りと言っても到着にそこまで影響は出ないし」
実際問題として今回レミリアたちが遠回りをするといっても、その無駄となる距離を考えれば、王都プランツシティからコヒの町までの距離にも満たない。
しかも駅馬車のように、1時間あたり7キロから良くて12キロ程度しか進めないわけではない。早馬で以てして移動しているのだ。
しかも、実は単なる早馬ではない。
とんでもないことに、時速70キロを維持した状態でおよそ3時間もの間、疾走できる馬なのだ。そして、レミリア軍団の騎兵の半数が、既にこの馬を用いている。
さて、王都プランツシティからコヒの町までは距離にして90キロ弱。時速70キロを維持さえすれば1時間と少しで着ける距離である。
※
(主人公視点)
盗賊ゴブリンの拠点を制圧した私たちは、そこで特に居残る理由も無かったので、移動を再開した。
「それにしても、今日は馬車酔いしないようだな? 」
「そうだね。昨日は元々調子が悪かったのかもしれないわね」
「そうか。まあその日の体調次第では、普段は乗り物酔いをしない者であっても酔うこともあるかもしれないしな」
ましてや、ユミは女性だ。
女性特有の体の不調と重なることだってあるだろう。
それから馬車はひたすら、のんびりと進む。
おかしなことに天使共の気配も強くなってきたのであった。どうやら一度遠ざかって、また近づいてきたようだ。
「全く嫌になっちゃうよ」
この気配はずっと続くとストレスになる。
そして天使共との追いかけっこがいつまで続くのかと考えたその時、少なくともこの馬車に比べれば、かなり速さで追い越す何かがチラッと見えたのだった。
それから1分も経たない内にして、また馬車が停車した。
これは、またトラブルでも発生したのだろう。
「カルロさん! 大変です! 魔王軍ですよ。魔王軍四天王レミリア直々による臨検です」
「レミリア……だと? 」
まさかこのようなところで、魔王軍四天王と鉢合わせになるとは思いもしなかった。
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