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第109話 マリーアとの再会と、そして初対面の者たち
レミリアとの口論も終わり、レミリアの提案(命令)で、私たちはディアナたちがやってくるまで、この場所で待機することになってしまった。
そして……。
「カルロさん。3日ぶりですね。元気にしておられましたか? 」
と、やって来て早々に嫌みっぽく言ってくるのは、マリーアだった。
もはや魔王軍幹部であることを隠すつもりはないらしい。攫われた感が、全くもってないわけだ。
「マリーアこそ、随分と活き活きしているようだな。攫われたのではなかったのか? 」
「何を仰るのですか? そちらにいらっしゃる国防軍情報部所属のブルレッド少佐から、既にお聞きになっていますよね」
ブルレッド君もレミリアの臨検によって、国防軍情報部所属であることを示す身分証を提示することになってしまい、こうして身分がバレているわけである。
情報部所属が、その身分証でバレるとは何という皮肉なのか……。
「まあな。それにしても氷の刃が痛かったぞ。全く」
王都プランツシティの宿屋で、吸血鬼風の女を追おうとした際に、背後から氷の刃を受けた時の話だ。
「何のことでしょう? 」
とぼけやがって。
そしてマリーアは続けて言う。
「でも、旅の初日。王都アリバナシティの宿屋で、こっそりカルロさんの部屋に侵入しようとしたのは私ですよ。まさか、気づかれるなんて思いもしませんでした」
そう言えば、何者かが私の泊まっている部屋に侵入してきたな。
まさか、マリーアだったとは。
「拘束しようとでも思ったのか? 」
「ええ。睡魔魔法で昏睡させた後、縄で縛りつけた上で、≪特殊手錠≫をはめようかと思っていました」
≪特殊手錠≫と言うのは、ゾルニオッティ家にしか作れない手錠であり、一切の魔法が使えなくなるという効果がある。
「なるほど。残念だが、私は直ぐ目が覚める体質だ。寝込みを襲うのは難しいと思うぞ」
爆音が鳴り響く戦場にいたわけだ。そのせいか、寝ているときは些細な音にも反応してしまうのである。
幸いなことに、起きてもすぐ眠れるので、大した問題ではないのだが。
「それにしても、ブルレッドさんの任務は【教会】に於けるスパイ活動だったのですか? 」
どうやらマリーアたちは、ブルレッド君が【教会】の司祭であることを知っているようだ。
確かに彼は、【教会】でのスパイ活動をやっていたらしいが……。
「マリーアの言うとおり、ブルレッド君は【教会】でのスパイ活動が、任務だったらしいね」
私がそう言ったと同時に、マリーアと入れ替わるような形でユミに似た顔の娘がやって来たのである。
ユミの顔からあどけなさを取り除いたら、ちょうどこのような感じか……。
「初めまして。貴方がカルロさんですか。私はディアナと申します。妹のユミがお世話になっております」
どうやらこの娘が、曰く付きのディアナのようだ。
「こちらこそどうも。ユミは、私が責任をもって保護するからあなた方は心配しなくても大丈夫ですよ」
「いえ。ユミは姉である私が保護するのがよろしいかと。わざわざ他人様にご迷惑をかけるわけにはいきません」
なるほど。こう切り返してくるとは。であるならば、単刀直入に聞いてしまおう。
「ディアナさん……。貴女はユミも、ご自身の部下にしたいわけですね」
「ユミを部下にしたいって、それは貴方たち国防軍なのでは? 」
「少なくとも現時点では、ユミを国防軍に入隊させるつもりはない。ユミの純粋な意思で国防軍に入隊したいと言うならともかくね」
「そうですか。では私はここで失礼しますね」
そう言って、ディアナはこの場を去った。
上官であるレミリアのところへでも、行ったのであろうか。
そして今度は男がやって来た。
「俺はアレックスだ。魔物使いなんだがな……俺の使役していた魔物は、悉く(ことごとく)アンタらに蹴散らされたぜ」
ほう。
こいつが、魔物使いなわけか。この旅が始まって早々から、付けていたであろう魔物使いと、ようやく対面となったようだ。
「こちらこそ。私はカルロと言う。毒タヌキを始めとして、結構面倒な魔物を押し付けてくれたもんだよな。まあ、毒タヌキはどうでも良い。あのブルーウルフは一体何なのだ? 単なるタフにしては異常な耐久力……いや、不死身と言ってしまいたいくらいだった」
色々あって忘れていたが、この魔物使いが使役していたであろうブルーウルフは、一言で言えば≪異常≫なものだった。元々、ブルーウルフはタフさで有名だが、あの場で戦ったブルーウルフはその範疇を超えていたのである。
「何だ? 流石のあんたでもブルーウルフには苦戦したようだな。なら俺も多少はあんたに太刀打ちできたようで良かったよ」
「まあ、そうなんだけどさ……。だけどね、喉ぼとけを潰しても、首と胴体を切断しても死ぬことはなかった。正直言って気持ち悪かったな。あれはあんたの業か? 」
思い出すだけで、身震いしてしまう。
「いや、偶然群れで行動していたブルーウルフに使役魔法をかけ、そして成功しただけだ。それ以上のことはやっていない」
「そうか」
「ところで、俺からも聞きたいことがあるんだが、西ムーシの町に比較的近い森で天使共の死体が何体も見つけたのだが、あんたの仕業か? 」
何で知っている!?
いや、わざわざ私を尾行して、一部始終でも見ていたのだろう。あのような人気ひとけのなさそうな森で、まさかよりによってこいつが見つけるにしては、偶然が過ぎる。
ところで、天使共の1人は逃がしたのだったな。
奴はどこで何をやっていることか。もしかしたら、今回私を尾行している天使共に、合流しているのかもしれない。
「天使の死体か。犯人はどのような奴だったんだ? 」
あえて、こういう質問で返してみた。
「質問で返すのか? 俺はあんたが関与しているかと思うのだがな。実際、西ムーシの町に到着して早々、あんたは私用とやらで旅を中断させたわけだ。断定はできないが、疑うには充分な根拠だと思うがな」
痛いところを突いてくるもんだな。
ただ実際には西ムーシの町につく前に私はやっているわけで、時系列は逆になる。となると、犯行の瞬間を見たわけではなかったようだ。
隠すつもりはないので、ここは話してしまおう。
「どうやら私は天使共に命を狙われていてね。だから、森まで誘き寄せてやったんだよ。とはいえ、森で天使共を殺したのは、西ムーシの町に着く前のことなんだけどね」
「なるほど。なら、俺の推理は的外れだったわけだな。それにしても、やはりあんたがやったのか。まあ、国防軍の高官らしいし天使共から命を狙われるのは当然なのだろうけど」
「まあ、天使共はむしろ、戦後に設立された今の魔王軍よりも国防軍を恨んでいるだろうな、だから私も狙われる可能性は大いにある」
先の戦争では、国防軍が主体となって戦ったのだから当然である。そういう意味では、魔王軍は気楽で良いものだ。
「そうか……。話が変わるが、今回の勇者一行は【教会】が決めたらしいな。ところが、魔王軍幹部のマリーアに国防軍高官のあんたとがパーティーメンバーになってしまったんだ。何だか【教会】もアホらしいね」
そう言ってやるな。
仕方ないじゃないか。【教会】にも【魔王領】のスパイが紛れこんでいるのだから。
「そのことだが……実はそこに居るブルレッド君の指名なんだよね」
私がそう言うと、アレックスは「なるほど」と言って頷いた。
今更ではあるが、ブルレッド君はマリーアが魔王軍幹部であることを知っていてわざわざ指名したのだろうか。
先日聞いた際には、誤魔化されてしまったが、やはり気になるものだ。
「それと、今も天使共が付けている。私が狙いなのだろうが、アレックス君たちも警戒しておくことだ」
「そうか。カルロさんの言うことだ。何らかの根拠があってのことだろうし、忠告に従って警戒しておくよ」
アレックスはそう言って、立ち去って行った。
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