≪ミハラン≫第112話 拡大する戦線

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≪ミハラン≫第112話 拡大する戦線

 その頃、≪ミハラン≫地方では、戦闘が激化していた。 「左翼から大軍だと!?  駄目だ応援は送れん! 中央も右翼も現状で精一杯だ。この際、防御を諦めて捨て身の覚悟で攻撃に注力せよ……ああ、最低限の防御は怠るな。なんだって? 既に将校のみが防御魔法を展開している状況だと? なら仕方ない。防御魔法は一切展開せず将校は有する魔力を盛大に行使し、全力で以て攻撃せよ。それと少し中央寄りに後退せよ」  ゴブガ大佐の下には、各大隊からの連絡が頻繁にきていた。それは全てゴブガ大佐に指示を仰ぐような内容のものだ。  そして、すぐさま別の受話器を取る。 「中央が突破されたら右翼と左翼が孤立するぞ! 中央の要であるお前らは絶対に現在地から一歩も後退するなよ! 」  さらに別の受話器もとる。 「右翼側の敵は手薄になったのか? だがその場で待機せよ。敵の陽動の可能性もある」  そしてようやく受話器から手を離すことができた。 「どうぞお水をお飲みください」  副官がそう言って、コップに注いだ水を持ってきた。 「おう、頂くよ」  ゴブガ大佐はそう言って、一気に水を飲み干した。 「ミハラン方面軍司令部に連絡する。やはり増援が必要だ」  ミハラン方面軍全体で見れば、第53ゴブリン人連隊は他の部隊よりも突出しかつ最左翼に位置していた。  そして、第53ゴブリン人連隊の視点で見れば、左翼側は第3大隊、右翼に第4大隊が展開。中央には第1大隊に第5大隊、さらに第2大隊(1個中隊は制圧した敵前哨基地に残る)が応戦している状況なのである。  さて、増援に来たはずの1個連隊はどうなったのか。  実はこの増援部隊は、移動中に敵と接触し、そこで戦闘になってしまったのである。こちらもかなりの大軍を相手にしているのだ。  よって戦線の最左翼に位置する第53ゴブリン人連隊は、単独で事にあたることになってしまったのである。 『ボブだ。これからお前が言うであろうことは判る。だがな、もはや全ての部隊が各所で戦闘中なのだ。どこもかしこも敵の大軍だよ。まさに、敵の主力と対峙しているわけだな。我々は。もう分かったな? 』 「そうですか。増援は難しいのですね? 」 『そういうことだ。ただ、既に退避させてある南ミハラン半島総督府管轄の国境警備隊ならば直ぐに送っていやっても良い』 「総督府管轄の国境警備隊ですか。しかし彼らは単なる警察組織であって軍隊ではありません。交戦能力など無いのでは? 」  実際問題として、南ミハラン半島総督府管轄の国境警備隊の装備は拳銃とサーベルだけである。  そもそもの業務は国境に於ける出入国管理と、国境付近での犯罪行為の鎮圧やその事後的な捜査だ。他の国の軍隊との戦闘は想定していないのである。そして魔法も使えない者たちが多い(南ミハラン半島で魔法が使える者は大概、国防軍に入隊する) 『まあ、最低限の武装しかしていない連中だ。だが今は猫の手も借りたいのだろ? 』  ボブ大将が今言ったことは、ゴブガ大佐にとっては図星なのである。 「そうですね。わかりました。国境警備隊の増援を要請できますか? 」 『わかった。既に総督府には了承済みだ。直ぐに国境警備隊2000名を向かわせる』  2000名。  国境警備隊の総数に近い数である。 「ありがとうございます……。では、失礼します」  ゴブガ大佐はそう言って受話器を切った。  そして副官に向けて言う。 「国境警備隊2000名が増援に来るそうだ。ただ前線では使い物にならんだろうから、制圧した敵前哨基地の警備に当たらせる。そして到着次第、基地に残っている1個中隊は左翼に向かわせよう」 「国境警備隊が増援に? と言うことはミハラン方面軍全体が、もはや余裕がないわけですか? 」 「そう言うことだ。どこもかしこも大軍と対峙しているらしい。敵はまるでウジ虫のように湧きだしているようだな」 「左様ですか……。しかし逆に我が軍がここで耐え抜けば、敵は総崩れとなり、まさに交渉も捗ることでしょう」  今回、ミハラン砂漠サソリ大王国軍が大軍を動かした理由は、国防軍が前哨基地制圧したことによって、ミハラン砂漠サソリ大王国の軍上層部が激怒したからであった。  つまり、第53ゴブリン人連隊の第1大隊が暴走しなければこのような事態にはならなかったのである。
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