≪ミハラン≫第113話 第53ゴブリン人連隊第3大隊は賢明に戦います!

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≪ミハラン≫第113話 第53ゴブリン人連隊第3大隊は賢明に戦います!

 第53ゴブリン人連隊の第3大隊が配置されている場所は、まさに左翼の果てに位置していた。  その左翼方面の果ての場所に、【ミハラン砂漠サソリ大王国】の軍が次から次へと集結しつつあったのである。  左翼方面のさらに果てにだ。  既に至る所に大軍が出現しているわけではあるが、【ミハラン砂漠サソリ大王国】としては、制圧された前哨基地奪還が目的であり、各所の大軍自体が陽動に過ぎなかった。  天使軍と同様に、この国も人海戦術で活路を見出そうするのが基本的スタンスなのだ。 「少佐! また増援です。このままではキリがありません! 」  第3大隊付きの将校がそう叫んだ。  もはや防御要員が1人も居ない中、敵は次から次へと兵を送り込んでくるのだ。敵側の全体的な前進はないものの矢による攻撃で牽制しつつ、度々、突撃を繰り返していた。 「幸い、敵の矢はあまり届かないが、それでもいつまで持つか……。一時的でも良い。何とかして敵を後退させたいものだ。それに今は敵側に向かって吹いている風も、風向きが変われば大変なことになるからな」  第3大隊長の少佐がそう言った。  現時点で判明している第3大隊の犠牲者数は、死者4名、負傷者23名の計27名になる。これらは全て敵の矢が刺さったことが原因だ。  まず展開されていた防御魔法が弱まり、次に防御魔法が一切展開されない状況になったことで犠牲者が出始めたわけである。  今のところは、敵の突撃は全て防いでいる。毎度の突撃で敵は死体の山を築いているのだ。  しかしながら、防御魔法要員もすべて攻撃に回さなければ敵の突撃を防ぎきれなくなってきたために、こうして第3大隊は防御を一切無視した捨て身の態勢で戦いに挑むことになってしまったのだ。 「敵を一時的でも後退させると……? 」 「そうだ。敵が一時的に後退したその隙に、敵の死体で防御陣地を作るのだ。簡単なことだ。急いで死体を積み上げれば良い。防御魔法と違って、真上から降って来る矢は防げはしないが、それでも壁にできるものが無いよりはマシだろう」 「確かに、それは良い案だと自分も思います」  副官がそう言って頷く。 「それでだな。今、良い方法を思いついた。既に我が大隊の士官の多くも攻撃魔法を展開させている。兵と違い個々が強力な魔法を放っているよな。そして俺も士官の1人である。であるならば、他の士官と同じく俺も攻撃するべきなのだ」  一呼吸おき、そして続ける。 「俺は単身で吶喊とっかんし、敵を攪乱してくる」  そこまで言うと、少佐は1つ置いてあった歩兵杖(魔法杖)を手に持ち、全速力で走っていくのであった。 「少佐、お待ちください! 」  副官もそう叫んで、慌ててついて行く。 「何だ? お前は指揮所で待機して各中隊や連隊本部との連絡を取りつつ、必要に応じて指揮をとれ。俺がいない状況ではお前しかおらんだろ」  直ぐ後ろから、副官が付いてきたに気づき少佐はそう述べた。 「し、しかし少佐! あなたは大隊長ですよ? 指揮所で指揮を執るのがあなたの仕事では? 皇帝陛下の真似事などお止めください」  皇帝は、先の大戦で最前線にてよく大暴れしたのである。 「何を言うのか。お前は既に大尉だろ。大尉で大隊長の者もいるのだ。そろそろお前も大隊の指揮に慣れておけ」 「論点をすり替えないでください! 早く、指揮所に戻ってください! そもそもお一人で吶喊すること自体、無謀で無意味ですよ。大隊の指揮を放棄した挙句に犬死になさるおつもりですか? 」 「馬鹿だな。俺は死なないよ。何を勘違いしているのか……。それと走っていながら話すと体力を無駄にする。もう話しかけないでくれ」  そして少佐は1人で敵方へ吶喊したのである。  敵は少佐に対して集中させて矢を放つ。  少佐は重厚な防御魔法でそれら全てを無力化させた。  さらに防御魔法を展開しつつ、強力な攻撃魔法も連発で繰り出していた。  同時に2つの魔法を行使するのはとても難しく、さらに攻撃魔法も連発させているわけだが、少佐は容易くそれをやってこなすのである。  無双なのだ。 「少佐の吶喊で敵の混乱しているようだ。今がチャンスか……」  副官は呟く。  それから直ぐに、各中隊に向けて指示を出したのであった。即ち敵の死体を積み上げて簡易的な防御陣地を築くことである。
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