≪ミハラン≫第114話 第53ゴブリン人連隊第3大隊は賢明に戦います!②

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≪ミハラン≫第114話 第53ゴブリン人連隊第3大隊は賢明に戦います!②

「右翼方面で敵が1名、暴れながら走り回っているようだ」  そう言うのは、【ミハラン砂漠サソリ大王国】の先遣部隊の長を務めるシタノサソ・リーノ将軍である。  彼の率いる兵は、当初は3万であったものの、増援も続々とやって来て最大で9万に膨れ上がった。ただ既に1万もの兵が犠牲になり或いは脱走しているので、現在は8万と言ったところだろう。  シタノサソ・リーノ将軍は自身の部隊の進行方向から見て、右翼(国防軍側からすれば左翼)に配置した兵力は千人隊が5個、中央への兵力は千人隊20個、そして左翼に千人隊2個である。  当初は前進しすぎたために1万人もの犠牲者(脱走者含む)を出した。  それで以て、ようやくわかった次第で300メートルよりは進まずそこから矢を放つという状況になっているのである。  尚、左翼に配置した2個千人隊は壊走している。 「そのようですね。前線の兵たちが逃げまどっているようです」  副官がそう答えた。 「ああ。元々我が軍の放っている矢が、攻撃としてあまり有効ではなかったとはいえ、こうも混乱しては放つことすら影響が出る」 「如何しますか? 」  最前線の兵は、矢が届くかもしれないギリギリの敵前方300メートル付近にまで接近し矢を放っていた。  一方の国防軍も兵卒による攻撃も、攻撃か届くがどうかギリギリの距離である。統一的な魔力の消費の仕方で放った≪貫通的威力による攻撃魔法≫は、300メートルほどで消滅してしまうからである。  ただ第53ゴブリン人連隊第3大隊は、士官たちがありったけの魔力を全力で消費して魔法攻撃をしだしたために、最前線には強力な攻撃が加えられるようになったほか、大隊長が自ら吶喊したがために混乱も生じていた。 「困ったものだな。白兵戦に持ち込もうにも、これ以上の前進を行えば、辿り着く前に敵に格好の的になるからな。左翼側の二の舞にさせるわけにもいかないと思っているのだがな……」  左翼側に配置された2個の千人隊は突撃を敢行し壊滅した。 「ええ。敵の魔力がいつ尽きるか、それも判りませんし」 「だが、今右翼側に配置させている部隊を全部前進させても後方にはまだたっぷりと兵力がある。このまま現状を維持しても無駄だ。ここは思い切って前進させてみるか」  人海戦術こそが基本的なスタンスな以上、これは当たり前の判断なのであった。  士気もお世辞にも高くはないので、前進させすぎると逃げ出したりする者もいるので戦死者以上に脱走者が増える心配もある。  ともあれ、5000の兵が一斉に前進を開始することになった。 ※  5000の兵が一斉に前進したことについては、敵の陣地で暴れている第3大隊長の少佐も、当然ながら気づいた。  少佐は防御魔法をドーム状に展開し、まるで竜巻のように敵の隊列を乱しながら移動しながら攻撃魔法を放ち、敵を殲滅させている最中である。 「前進を始めたようだな……」  少佐の移動する先々で、敵兵たちが混乱状態に陥っていた。   しかし、赤い花火が5発打ちあがった時を境に、混乱することはなくなったのだ。皆、黙って前進を始めたのである。 「こうなった以上は、俺も戻るか」  少佐がここにやって来た目的は敵を殲滅させることではない。敵を混乱させて一時的に後退させることだったわけだが、反対の結果になってしまったのだ。即ち敵は前進を開始したのである。  そして少佐は全速力で走り、第3大隊の指揮所まで急ぐのだった。 ※  第3大隊の副官も敵軍の変化に当然気づいていた。 「前進を始めただと……!? 直ぐに戦列を整えないと」  副官は急ぎ、各中隊に連絡するのであった。  敵の死体を使った防御陣地の構築は、中々思うように進まなかった。ゴブリン(平均1.3メートル)よりも背丈が高いサソリマン(平均2メートル)の死体を持ち上げるのは中々しんどいものなのだ。 「おやっ? 大隊長が走って戻ってきているようだな……。敵はノロマに前進しているようだ。よかった」  敵は鎧を着こんでいるため、この段階で走るということはしなかった。  一方の大隊長である少佐は、単に軍服という身軽な格好なのでドーム状の防御魔法を展開させながらも全速力で走ってきているのである。  そして40秒も経たないうちに、戻ってきた。  そのころには、各中隊も素早く戦列を整え終えていた頃だ。 「みずっ! み、水をくれ」  と、少佐が言う。 「どうぞ」  副官は持っていたコップを少佐に手渡した。  既に水をコップに注ぎ用意していたのである。  少佐は一気にそれを飲み干し、2杯目も要求した。  防御魔法を展開しながら、攻撃魔法を放ち、そして最後は全速力で走ってきたのだ。魔力のみならず体力もかなり消耗したのであろう。息が上がり、中々整わない様子であった。 「さて、状況は? 」 「はい。防御陣地を築いておりましたが、中断し素早く戦列を整えることができました。既に各中隊長の判断で攻撃が再開されております」 「そうか。連隊長からは前進も後退もするなと言われているが、必要に応じて後退させることも考えている。作業中の防御陣地を放棄してでもな」  しかし、一斉放撃で敵兵はまたバタバタと斃れていくのである。  まるで数時間前に見た様子そのものであった。
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