第115話 マリーアとの会話①

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第115話 マリーアとの会話①

「では頼むぞ! プランツシティに着いたら、このブルレッド君の書いた紙を王宮へ行き見せるのだ」  私は、自分が雇った傭兵団である【ファイア傭兵団】の団長にそう言って、紙を手渡した。 「任せておけ。それと俺たちに対してだけ言えば、変に罪悪感はもたなくていいぞ。前にも言ったが俺たちは汚いことだってたくさんして来た。それが俺たち傭兵なんだからよ。そこが大きく冒険者たちとかけ離れているところだ」  確かに傭兵は、そう言った者たちともいえる。 「そう言ってくれてありがとう。私に出来ることは、また手当てを支払うことだ」  グランシス商会が振り出した約束手形を渡した。 「貰っておくぜ。じゃあな」  そう言って、団長やその他の傭兵を乗せた馬車は王都プランツシティを目指して行ったのだった。  魔王軍の者たちはそれを止めることはなかったが、不審に思ったのかマリーアがやって来た。 「カルロさん。どうして傭兵たちを王都プランツシティへ向かわせたのですか? 」 「私が世話になっている商会を、暴徒から守らせるためだよ」  と、私は全くのデタラメを言った。  本当はプランツ革命政府に協力させるために送った。 「そのお世話になっている商会というのは、もしかしてグランシス商会ですか? 」 「どうしてグランシス商会なんだ? 」 「やたらとグランシス商会の手形をお持ちなので……そう思ったのです」  なるほど。  さすが魔王軍幹部なのか、色々と観察しているようだ。 「いや違うよ。西ムーシ商会だ。西ムーシの町に本店があってな」 「もしかして、カルロさんが西ムーシの町で一旦旅を中断したのは、その商会が絡んでいたりします? 」  気づいたか。  もう隠す必要もないだろう。 「その通りだよ。西ムーシ商会にとっても大事な商戦を控えていた時期でな、それを手伝っていたわけだ」 「商戦ですか。私はどうしても商売をしている人たちを見下しているような、そういう感情が生じてしまうのです。あえて言葉にするなら……自分のカネ儲けのためだけに動いている人たちであると。そのような存在に、協力したのですか。貴方は」  そしてマリーアは続けて…… 「その商戦で西ムーシ商会が勝ったからと言って、世のためになるのでしょうか? 」  と言った。 「確かに動機はカネ儲けだろう。だが結果論としては世のためになることもある。今回の西ムーシ商会が勝ち取ったことは、結果的には世のためになるものだ。私はそう信じている。商人のように、カネ儲けを動機として動く者たちはエネルギッシュだ。マリーアも何か大事なことを成し遂げなければならくなった時は、商人たちを逆に利用するのも良いのでは? 」  あの【ロベステン鉱山】で取れた魔鉱石は、【魔王領】まで送られて国防軍に供給されている。グランシス商会がロベステン鉱山を競落していれば今頃、【教会】や天使共に魔鉱石が供給されていたであろう。  西ムーシ商会が莫大な利益を得ると同時に、国防軍も大事な物資を手に入れることができるのだ。 「言いたいことはわかります。しかし……」 「気持ちはそれを許さないか。では、少しはディアナ氏を見習ったらどうなのだ? 聞くところによると結構汚い手を好んで使うとか。それでも魔王への忠誠は確かであって、それに実は兄妹愛は強いらしいではないか」 「ふふっ。そうですね。確かにディアナさんは勇者相手には酷い手を使います。私自身、よく考えてみます」  私は、人というのは直ぐに偏見を持ってしまう生物だと思う。これは絶対的なものなのだ。後は、それをいかにコントロールできるかの違いに過ぎないのだ。  まあ、こう考える私でさえ、人類全体に対する偏見だがな。 「ところでだ。ずっと聞こうと思ってついつい忘れてしまっていたのだが、今の魔王というのはどういう者なのだ? 先代魔王の忘れ形見なのは確からしいが、あいにく見当がつかない。名はティアレーヌと言うらしいが、今まで聞いたこともなかったな」 「どういう方と言われましても……。そうですね……種族はエルフ族で、本名がティアレーヌ・ディ・ゾルニオッティです。そしてとてもお強く、いつも落ち着いているお方ですよ」 「やはり姓はゾルニオッティか。だが、先代魔王の子供にティアレーヌという名前の者はいなかったはずだ。それに【魔王領】で魔王バルロス3世の暗殺が起こった直ぐに、その子息たちも皆殺しにされたと聞く。その間も、生きていたのか? 」  私がそこまで訊ねると、マリーアが言ったのである。 「少し長くなりますが、よろしいですか? 」  と。
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