48人が本棚に入れています
本棚に追加
第116話 マリーアとの会話②~ティアレーヌが受けたかつての苦難
「まずティアレーヌ様は、ゾルニオッティ朝の正統な魔王であることは間違いありません。即位時の凱旋の際にティアレーヌ様の額にゾルニオッティ朝の正統な魔王であることを示す紋章が浮かび輝き、そしてそれを群集に見せつけました」
なるほど。
これだけでは、魔王バルロス3世の子供であるという証明にはならないが、ここで重要なのは≪ゾルニオッティ朝の正統な魔王であることを示す紋章≫が、額に浮かび輝いたことだ。
少なくとも魔王ティアレーヌが、ゾルニオッティ朝の魔王であることは間違いないのだろう。
「そして、魔王バルロス3世様の子供たちの中で唯一、お妾様を母とするお方でした」
ほう。
バルロス3世に妾がいたのか。初耳だ。
となると、妾の子が故にその存在を隠されていたという訳か?
そうすると私がティアレーヌと言う名を知らなかったことと辻褄は合う。
「妾がいたのか? 」
「お妾様がいらっしゃったと言われてます。ただティアレーヌ様ご自身もお母さまをお見かけしたことはないとのことです。これ以上の想像は控えましょうか」
「そうだな」
確かにこれ以上の想像は、すべきではない。
個人の人格に関わる大問題になる。
「さて、魔王バルロス3世様が天使たちの手によって殺害された後のお話をいたしましょうか。カルロさんもご存知の通り、魔王バルロス3世様の正室の子は皆殺しにされました。そしてそれは、ティアレーヌ様にとっても決して例外とは言えない状況だったのです」
妾の子だからと言って、例外は無かったわけか。ゾルニオッティ朝の血は流れているのだしな。
「私でさえ知らなかったティアレーヌという娘を、天使共は調べ尽くして殺そうとしたのか? 」
「はい。かなりの頻度で襲撃がありました。その襲撃を毎回有効に防いでいたのが、魔王軍四天王の中でレミリア様、ルミーア様、そしてハインツ様でした。私も当時からティアレーヌ様にお仕えしておりましたが、負傷し瀕死の状態になっておりまして……」
「今の話を聞く限りだと、やはり四天王とやらもかなりの実力のようだな? 」
「それはそうですよ。ただ、もう1人バルロン様という方も魔王軍の四天王なのですけど、彼は王政復古後に魔王軍に入った人物で、実力も含めて謎が多い人物なのです」
そのバルロンがどうのこうのは一先ず良いとして……
「なるほどな。だが天使共も失敗を重ねれば、もっと強力な戦力で襲撃するようになるだろう? よく耐えたな」
実際問題そう思う。
最終的には、大天使が束になって襲撃してもおかしくない。奴らは異様にゾルニオッティ朝の血を嫌っていた節があったからな。
そんな天使共から、よく耐えたもんだ。
「確かに襲撃が度重なるごとに、敵の強さは増していきました。私は3度目の襲撃でやられたのです。さらにその後も、5回ほど襲撃が続きました。しかしある時を境に襲撃はピタリを止んだのです。カルロさんならお分かりなのでは? 」
襲撃が止んだだと?
全く以て見当がつかないな。天使共はゾルニオッティ家の血筋を断絶させるのに必死だったはずだ。現にゾルニオッティ家の中で、ティアレーヌ以外の者は皆、殺されている。
「どういうことだ? どんな理由で止めたのだろうか」
「わかりませんか。カルロさんは国防軍の高官の方ですよね? 」
国防軍……か。
ああ、なるほどな。
そういうことか。
「帝政の始まりが理由か。皇帝が即位宣言をした後は、天使共はありとあらゆる方法で皇帝を暗殺しようと必死になったもんだからな。あの時は私も大変だったよ。【教会】から選任された勇者から襲撃されたこともある」
「ええ。結果的にティアレーヌ様が助かったのは事実なのです。ところで、カルロさんも勇者から襲撃を受けたのですか? 」
「まあな。あの勇者一行とは元々面識があって、時々酒場で一緒に飲む仲でもあったんだよ。だが殺したのだ。皆殺しだ。私の業によってな」
「……それは襲撃を受けたからですね? 」
確かに向こうからの襲撃だったな。
罵詈雑言を私に対して浴びせながらな。
「ああ。【魔王領】の刑法典で判断すれば、恐らく裁判所は正当防衛を認めるだろう。しかし、あのことは気持ちの良い話ではない。ディアナ氏の勇者たちへの対応は素晴らしく感じる」
本当に。
私は彼らをとても憎く思い、そしてとても悲しかった。
「そうなのですね……。とりあえず、ティアレーヌ様に関するお話はこれで以上となります」
「おう。説明してくれて、ありがとう」
最初のコメントを投稿しよう!