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第117話 マリーアとの会話③
「先ほどもお聞きしましたが、カルロさん。貴方は国防軍の高官なのですよね」
と、マリーアが訊いてくる。
「まあ……な? それがどうした」
「ついさっき、モーニングサン新聞のとある記事を読んだのです。やはり、改めて思いました。国防軍上層部は何かを隠していると。私の兄も国防軍の軍人で、先の戦争に出征していきました。しかし兄は戦死者又は行方不明者としても扱われておりません。カルロさん、国防軍は何を隠しているのですか? そして兄は今どこで何をしているのですか! 」
マリーアもモーニングサン新聞のあの記事を読んだわけか。
確か≪あの戦争と国防軍上層部 第2弾≫とかいう記事だったと思う。それにしても、まさかマリーアのお兄さんが国防軍の軍人だったとはな。
確かに我々は【魔王領】の市民に対して多くのことを隠している。魔王に対しても同じだ。
「国防省からの通知は一切ないわけだな? 」
戦死或いは行方不明者と扱われた者は、国防省から書面で通知されることになっているはずだ。
「はい。全く通知がありません。国防省にも尋ねたことがありますが、やはり兄は戦死してもおらず、行方不明になっていないとのことでした」
なるほど。
「そうか……。これを言うこと自体、軍の機密をバラしていることになるが、あえて言っておく。戦死者或いは行方不明者として扱われていないのであれば、生きており、そして軍の何かしらの任務に就いていることは間違いない。しかしこれ以上を話すことはできないな」
いずれ市民たちにバレることであろうがこれ以上のことを言って、わざわざ私自身がその起爆装置になるつもりはない。
まあ今マリーアに話したことが、そもそも起爆行為だと言われればそれまでだが。
「生きているのですか? そして軍の任務に就いていると。それは本当なのですね?」
「もちろん、絶対とは言い切れない。例えば本当は戦死したにも関わらず担当官が計上ミスをしたことで、戦死者として扱われていない可能性は否定できない。とはいえ、あの戦争から何年も経っている。その間に何度も調査を行っているから、情報に誤りがある可能性はだいぶ低いものだと思うな」
「わかりました。カルロさん国防軍高官として責任をもって仰っているわけですものね。カルロさんを信頼いたします」
「すまない」
マリーアにとっては、これは身内のことだ。とても兄の行方が気になることだろう。
そして国防軍は隠してばっかりだ。それにも拘わらず、私の発言を信頼してくれるとは。とてもありがたく、そして申し訳ない気持ちになる。
「後は……。後はいつ国防軍が隠し事を完全に明らかとするか、なるべく早く明かしてくださることを期待しております。もちろん、軍の機密はとても大事なことでしょう。迂闊に明かすことは難しいかもしれません。しかし魔王ティアレーヌ様にでさえ、お隠しになっていることを決して忘れないでくださいね」
「魔王ティアレーヌ様にでさえ、お隠しになっている」……か。
どうして隠すのだろう……。
国防軍に変なプライドがあってのことか、或いは、国防軍としては魔王を信用することが現段階では難しいからなのか……。
私の推測としては、前者に該当するものだと思う。
尚、私自身は後者の立場だ。
魔王ティアレーヌを信用することは現段階ではできない。まずは、私自身が会って話してからである。
「そうだな。聞くところによると、やはり魔王に対しても色々と隠しているらしいね」
「ええ。魔王ティアレーヌ様を馬鹿にしているのではないかと、私はそう思っています」
「確かに国防軍が増長していることは私も感じている。先の戦争に出征したという事実。これが増長する主な原因だろうね。さらに言えば、先のあの悲惨な戦争に出征すらしなかった魔王ティアレーヌと魔王軍に対して冷ややかに見ているのだと思う」
「先の戦争はとても悲惨な戦いばかりだったと聞きます。そして私たちは確かにあの戦争には参加しておりません。「内地でぬくぬくとしやがって! 」と言われても仕方がありません。ですが、魔王ティアレーヌ様も同じく【魔王領】を守ることだけを必死に考え、厳しい修行を行ってきました」
厳しい修行……か。
一体何をしたのだろうか?
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