第119話 カルロを襲った吸血鬼の正体

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第119話 カルロを襲った吸血鬼の正体

「初めまして。私は、今は旅芸人をやっているアリシャ・ゾルデニと申しますわ」  マリーアと入れ替わる形で、アリシャ・ゾルデニを名乗る娘がやって来た。  その姓を聞いた瞬間、私は思った。  即ち、ゾルデニ魔侯家と同じ姓であることを。  ゾルデニ魔侯家は名前の通り、【ゾルデニ魔侯領】を治める君主である。そして私の知る限り、ゾルデニという名の家は1つしかないはずだ。  それに今の彼女の挨拶の仕方からして、間違いないだろう。 「こちらこそ。初めまして。カルダス・ロムネーと申します。以後お見知りおきを」  この旅が始まってからは、一切本名を名乗ることはなかったが、私は本名を名乗ったのである。  カルダス・ロムネー。  これこそカルロ……即ち私の本名だ。 「えっ! 嘘! カ、カルダス・ロムネーって……」 「大声で言わんでくれ。あえて貴女には、本名を名乗る必要があると思ったのだ」 「ごめんね。カルダスさん。でも本名を言ってくれたのだから、改めて自己紹介をするわね。私はアリシャ・ゾルデニ。ゾルデニ魔侯家の者よ」  やはりゾルデニ魔侯爵家の者だったか。  私の推測は見事に当たったようだ。だが、私はいつも根拠の乏しい確信(勘)に、ついつい踊らされてしまう気がするが……。  ともかく、またやんごとなきお方が現れたようだな。  それにしても、今は旅芸人をやっているのか。どういう事情があってのことなのか気になる。単に彼女にとっての趣味の一環かもしれないが。 「最初に堅苦しいご挨拶をして来たからな。それに姓の名も相俟って、魔侯爵家の者だと思っていたよ」 「うん。隠すつもりはなかったし実際に今、どこの家の者か言おうと思っていたよ」 「そうか。それで何か用件があってのことか? 」  そもそも何故近づいてきたのか。  まさか単なるご挨拶だけ、ではあるまい。 「そうね。まず私と貴方は一度会ったことがあるの。さて、どこで会ったと思う? 」  全く以て見当がつかない。一体、どこで会ったというのか。 「ゾルデニ家の者たちがやって来た時は、当主のゾルデニ侯爵閣下だけだったと思うが、その時に一緒にいたのか? 」 「いいえ。ならヒントを言ってあげるね。貴方は私に会った時にこう言ったの。「貴様。私に攻撃してくるとはな。暗殺のつもりなのだろうが、失敗して残念だったねえ。で、誰の指図なんだ? 【教会】か? それとも天使共から直接指図を受けたか? まさか戦死した兵士の親族か? どうなんだー」ってね」  思い出した……。  王都プランツシティの宿屋でのことだ。  吸血鬼風の女が私を襲ってきたが、その時の女が彼女だったわけか。旅芸人であるというし、特殊な化粧や衣装などしたい放題なのだろう。  それにしても、演技巧いな。  感情が籠った形で、今彼女は私の真似をしたのだ。周りの者たちも、アリシャをチラッと見ている様子が窺える。 「思い出したよ」 「本当は吸血鬼がいると思い込ませて、ボロ屋敷までマリーアを除く勇者一行の3人を追いかけさせるつもりだったけどね。まさか追いかけて来たのが、カルダスさんだけだったのは想定外。しかも傭兵団まで追いかけてきたようだし。で、その後は予定を変更して、アレックスと一緒に逃げたってわけ」 「そうか」 「本当はボロ屋敷の中で、アレックスの使役する魔物と3人と戦わせておいて、その隙にマリーアが魔物と戦っている3人を奇襲する計画だったらしいわ」 「そうだったのか。場合によってはマリーアと戦闘になっていたかもしれないとね……」  それにしても、アリシャの言うアレックスが練った計画はある意味博打だったのではなかろうか?  相手と運しだいでは、アリシャ自身が戦闘に巻き込まれた可能性もある。そして応戦もできず捕らえられて、正体を暴かれることだってあったろうに。  まあ、マリーアが背後から氷系の魔法を放った点を考えてみると、一応の対策はされていたのだろうけどな。  それにアリシャ自身の戦闘力もどれほどなのかは、判らないが。 「それと話は変わるけど、単刀直入に聞くね。勇者ユミをどうするつもりなの? 」 「ユミをどうするか……と? 」 「うん。姉であるディアナさんは、勇者ユミが国防軍の都合のいいように利用されないか心配しているよ」 「なるほど。悪いようにするつもりはない。むしろ国防軍には入隊させたくないくらいだ。しかし、これはブルレッド君にも言ったのだが、私の養子にしようかと思ってね」  何故か、私はユミを養子にしなければならないという気持ちになってしまうのである。これはどういうことなのか、私自身とても気になる。 「養子……ですか? ユミさんを貴方の? 」 「まあね」 「このことをディアナさんに言ったら、どうなることやら……。ああもちろん、私は今カルダスさんが言ったことは黙っておきますけどね」  そうだな。いずれディアナとも話すことになるだろうな。 「ユミのことについてはいずれ、ディアナ卿とも相談するつもりだ」
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