第120話 元勇者3人組との対面と≪レミリア三騎≫のアルムが悩む

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第120話 元勇者3人組との対面と≪レミリア三騎≫のアルムが悩む

 そして、また私のところにやって来る者たちがいた。  今度は元勇者とかいう3人組である。どこかで、見たことのある顔だと先ほどまで思っていたが、関所の近くで戦闘になった3人組のようだな。  まさか、こういう形で再開することになるとは……。 「初めまして。ロンと言います」 「あたしは、アリッサ」 「俺はカインだ。よろしく」  と、3人の元勇者はそれぞれ、あくまでも初対面という形で挨拶してきたので、私も返すことにした。 「私はカルロという。キミたちは元勇者とのことだが、今はどうして魔王軍に? 」  私が、挨拶がてらそう訊ねると、ロンという少年が言う。 「最初は悔しかったですけど、天使共の実態などを知り、今は俺は魔王軍に所属して正解だと思います」 「そうか」  彼の言うとおり、例外を除き天使共は本当に自分勝手であり、そして悪逆非道である。 「あたしもね。勇者として旅をしていた時を思い出すと、とても恥ずかしいよ」 「ああ。今は魔王軍の軍人として働いて、魔王ティアレーヌ様に対して牙を向けていたことに対する償いをすべきだ」  アリッサやカインも、そう言った。 「では3人とも、今の状況には満足しているのか……。それで、今回はどうして私のところに来たのだ? 」 「国防軍の高官であるカルロさんに、ご挨拶しに来たのです。俺は他に個人的に気になることがありますけどね」 「そうか。それで、ロンは一体何が気になるのだ」  一体何が気になったのであろうか。  それ自体が、むしろ私にとって気になることである。 「はい。単刀直入に言います。俺たちは貴方がたをプランツシティからずっと付けていました。そして【ゴルモン部族連合国】に入ってから、貴方は急に警戒するしぐさをするようになったと思います。【ゴルモン部族連合国】には何かあるのですか? 」 【ゴルモン部族連合国】に何かある……か。  全く見当がつかない。 「私には何のことかわからんな。しかし、ロン君が言うには、やはり私は【ゴルモン部族連合国】に入ってから警戒を示す行動をするようになったと? 」 「ええ。間違いないと思います」  警戒を示す行動と言えば、たった今思い出したことが1つある。それは今も感じる天使共の気配だ。 「思い出したよ。恐らくだが、天使共の気配を感じ取ったからだろう。私の体質かわからんが、天使が一定の距離にいると気配を感じるのだ。私に近づけば近づくほど、その気配は強くなる。何人くらいいるかも、ある程度はわかる。その天使共の持つパワーまでは判らないがな」  現に5名ほどの天使が、私のことを付けているのだ。 「えっ!? 天使ですって? 」  ロンがそう驚いて言った。  そしてカインが言う。 「さっき、アレックスさんが言っていた話はこういうことだったのか」  早速、魔物使いのアレックス君は魔王軍の者たちに伝えてくれたらしい。 「ああ。アレックス君には話したからな。キミたちも警戒するに越したことはない」 「それにしてもさ。カルロさんは、何で天使共に付けられているわけ? 国防軍の高官だらしいけど、それだけが理由なの? 」  と、アリッサが訊いてきた。  今回のも恐らく、上級天使エレドスが関与しているのだろう。それに前回の襲撃時の下級天使共は私のことを恨んでいたな。 「思い付く理由は色々とあるが、どれが本当の理由かは判らない。ただ理由の如何を問わず、私を始末したいと考えている天使同士が、徒党を組んでいる可能性がある」 「じゃあ、個人的にカルロさんを殺したい……そう思っている天使たちの仕業だと思っているの? 」 「少なくとも天使共の組織的な犯行にしては、腑に落ちないところがいくつかあるからな。一部の天使共によって、私的してきに狙われているものと考えているよ」  わざわざ前回の襲撃時に、下級天使を寄越す時点でおかしいのだ。  殺したいのであれば、もっとまともな戦闘力を持つ天使共を寄越して来ればいい。組織的な暗殺なら、そのくらいするはずである。 「でもまあ、カルロさんなら平気だと思うけど……。敵にすると厄介なのは、この前のでよく分かったから」  と、アリッサが言う。  そして、元勇者3人組がこの場を去ってから少しして、馬車列が出発を開始したのであった。 ※  カルロが傭兵団をプランツシティへ向かわせて出発させた頃、セルテンの町にいる≪レミリア三騎≫の1人であるアルムは頭を抱えていた。  プランツに対応する責任者として、彼が任せられたからである。  そして、彼専属の副官となったエミリが言う。 「情報では、件の革命政府には兵が次々と集まっているようです」 「ああ。このまま黙っておけばプランツ側の兵力は増えるだろう。これ自体は大したことはないが、時間が過ぎれば過ぎるほど怖いものはない。プランツ現政府が【アリバナ王国】に救援を要請しないとも限らないし、さらには【マナガーシ地方教会騎士団国】が動かないとも限らないしな」  【マナガーシ地方教会騎士団国】とは、建国当時、教会騎士団の最上層部が、マナガーシ地方を守備していた教会騎士団の分団に国家を建国させたものである。  マナガーシ地方教会騎士団という名前もその建国の時に付けられたもので、当初は教会騎士団第12分団という名前だった。  ≪教会騎士団国家≫の1つではあるが、他の≪教会騎士団国家≫と違うのは教会騎士団の分団そのものが主体となっている国家であるところだろう。他の≪教会騎士団国家≫は、あえて国王の位を授けて王国を築かせたのだ。  尚、マナガーシ地方教会騎士団総長が【マナガーシ地方教会騎士団国】の国家元首を兼任している。  さて、その【マナガーシ地方教会騎士団国】が動けば、アルムとその率いる兵力だけでは対処でき難くなるのだ。  まず【マナガーシ地方教会騎士団国】の教会騎士の数が500名。従士の数が2500名。さらに【マナガーシ地方教会騎士団国】の≪国≫としての兵士が1000人である。合計すると4000名程度の戦力を持つことになるのだ。  当然ながら【教会】の騎士団が治める国であって、練度も高い。 「ですが、現プランツ政府は【教会】に対しても反抗的な立場だと聞きますし、【マナガーシ地方教会騎士団国】はさすがに動かないのでは? 」  と、エミリが言った。 「いつどうなるか判らないだろう。突然プランツ革命政府が【教会】と和解を始めたらどうする? それに和解せずともマナガーシ地方教会騎士団がやって来てプランツシティを制圧しないとも限らない。だからこそ時間が経てばたつほど、面倒になるんだよ」 「はい」 「とにかく、今はプランツ周辺の国々と【マナガーシ地方教会騎士団国】のありとあらゆる動きを監視すべきだ。必要に応じて工作活動もしなければ。幸い予備のスパイ要員もいるしな」 「かしこまりました」  こうして、プランツとの事実上の停戦状態の中、魔王軍とプランツ並びに周辺各国及び【マナガーシ地方教会騎士団国】による調略合戦が始まるのであった。
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