≪エレドス≫第121話 上級天使エレドスの謀議

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≪エレドス≫第121話 上級天使エレドスの謀議

 ここは【天使領】の大天都である。  そのとある家屋で、エレドスは仲間を集めて謀議を行っていた。円卓を囲っての謀議である。その円卓の上には何かが入ってて膨らんでいる袋が置いてあった。 「ふふふふっ。お膳立てしたあの女もまもなく【魔王領】に到達するころだろう。さて今日に至るまで私は激しい修行に耐えて来たが、それももう終わりだ」  と、エレドスはまず一方的に述べた。  そして続けて言う。 「修行の結果、転移魔法を何度発動しても反動による激しい疲労感も感じなくなり、またとっておきの魔法も身に着けた。そして魔力も以前の2倍にまで膨れ上がったのだ。さらに気配を消す特殊業も身に着けた。私がここまでやってのけた以上、大天使の中でも下位の連中であれば、もはや私には敵うまい」  エレドスの仲間たちは黙って、聞いている。  ただ1人、エレドスの側近的立場の上級天使が言った。彼だけはエレドスの意図に勘づいたからである。 「エレドスさん。まさか貴方自らあの男を倒しに【魔王領】へ赴かれるのではありませんよね? 」 「そのまさかだ。もし万が一にも、私があの男の息の根を止めることに失敗したら、後はキミたちに任せる。ふふふふふっ。さらに修行したいところだけど、ふふふふっ……私の体はもう待ってくれないのだ。ふふふふふっ」  エレドスの不気味な笑い癖も相俟って、仲間たちはエレドスの発言を誤解してしまったのであった。即ち彼は、体が待ってくれない=疼くほどに、今すぐにでもその憎む相手と戦いたいと。  そのように思ったのは、彼の側近的立場の上級天使も同じであった。今のエレドスの発言は、言い換えれば「もはや自分には後がない」という意味だったのだ。 「俺たちに任せると? 」  側近的立場の上級天使がそう言った。 「ふふふふふっ。そういうことだ。あの男の息の根を止めるためには時間が必要だ。だから焦るな。ふふふふっ。そうすればいずれ時は来るであろう」  エレドスはそう答える。  あくまでも「もはや自分には後がない」という立場での発言だ。だからそれが判らない仲間たちは疑問に思ったのであった。 「でしたらエレドスさんも、もっと修行するべきなのでは! 」  と、仲間の1人がそう言う。 「そうですよ! 現状、エレドスさんは貴重な戦力なのです」  また別の仲間が言った。 「ふふふふっ。確かに自慢ではないが、この中では私が一番戦力になるだろう。ふふふふふっ。だからその私が消える代わりに置き土産をしておくことにした。カネだ。今ここには1万枚の金貨がある。どのような方法でも構わない。これを巧く使うのだ。ふふふふふっ」  エレドスはそう言って、円卓の上に置いてあった袋を開いて仲間たちに見せたのであった。確かにそこには大量の金貨が入っていたのである。 「エレドスさん……。まさか貴方が、こんなにお金をお持ちだったとは思いもしませんでした」  側近的立場の上級天使がそう言った。 「ふふふふふっ。復讐にすべてを費やした。だから、これだけのカネを集めるのも簡単なことだよ。ふふふふふふふっ」  実際にエレドスは極めて簡単な方法でカネを集めたのである。  もちろんリスクはある方法だ。盗みを行ったのだ。  狙ったのはエレドスが盗みに入った当時、売上を伸ばしてきて間もない商人の家である。そのため、浮かれ切っていてセキュリティが甘いだろうとエレドスは推測したのであった。  結果として、エレドスの推測は成功しこうして大金を用意することができたのだ。  これは今からちょうど1年前の話である。 「復讐に全てを費やす……ですか」 「そうだ。復讐に全てを費やせ。上級天使ファルドよ。キミもそろそろ腹をくくるのだ。生半端な気持ちじゃ、あの男の息の根は止められないだろう」  と、エレドスが言う。  今の発言の最中だけは、彼は笑わなかったのである。  そして謀議は引き続き、その殆どがエレドスの一方的な話で終わったのであった。  その後、エレドスは【天使領】から【魔王領】に一先ず転移したのである。  それからコートを着て、変装したエレドスは、【魔王領】内の各都市へ赴き、ある組織の者たちと接触したのであった。
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