第129話 国防大本営の決定

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第129話 国防大本営の決定

 ボブ陸軍大将らが【ミハラン砂漠サソリ大王国】側との停戦交渉に失敗したという報せは、直ぐ国防大本営にも届いた。  ボブ陸軍大将の増援要請と共に。 「交渉が失敗したということは、既に皆知っているな。【ミハラン砂漠サソリ大王国】側は140万人の兵力と、そして天使軍の駐留も示唆して交渉を蹴ったのだ。こうなっては今の状況で何度交渉しても無駄になるかもしれない」  と、ジョゼフ国防軍元帥が言った。  今この場に居るのは、陸軍参謀本部、海軍軍令部、憲兵隊統括本部のそれぞれの総長たちだ。 「陸軍としては、ボブ君の増援要請を受け3個師団を送る用意を開始しました。これで以て一気に大規模攻勢を開始すべきです」  陸軍参謀総長のモーリスが言う。  国防大本営の陸軍としては、そもそも大規模攻勢を開始すべきと言う意見で一致しているために、準備が早い。 「モーリス陸軍大将! 敵の総兵力は140万ですよ? 大規模攻勢などできるものですか! ましてやたった3個師団の増援だけでやるのですか! 」  海軍軍令部総長のカレルが叫んだ。 「カレル海軍大将。敵兵は数だけであって、質など持ち合わせていない。現にミハラン方面軍は前進して敵地を占領しているではないか」 「天使軍の存在はどうなさるおつもりで? 天使軍が参戦して来たらどう対処できたものです! 」  しばらく2人の口論が続いた後、憲兵隊統括総長のロベールが言う。 「皆さん。1つ重大なことをお忘れではありませんか? それは【ミハラン砂漠サソリ大王国】の実態についてです。彼の国は各地の軍管区によって、事実上群雄割拠した状態ですよね」  各地の軍管区が、軍閥化した結果である。 「確かに……。今回相手となっているのは【南方軍管区】でしたね」  モーリスがそういう。  カレルも頷いた。 「今のところ内戦こそ起きておりません。しかし、軍閥同士や中央政権が足の引っ張り合いをやるくらい仲が悪いのです。さて本当に140万もの兵が一斉に総攻撃を行うと思いますか? 他の軍閥や中央が【南方軍管区】を助けると思いますか? それを考えれば、私は交渉の余地はあります」 「ロベール憲兵隊大将。確かに彼の国が事実上群雄割拠の状況にあるとしても、外敵が現れれば統一戦線を張るかと思いますがね。やはり陸軍としては増援を送るべきだと思います! そして1日も早く大規模攻勢を行うべきかと」  あくまでも大規模攻勢に固執する陸軍である。  ロベールが言った。 「むしろこれ以上の進行は、他の軍閥を警戒させた結果、戦線が拡大する恐れがあります。大規模攻勢には反対ですね」 「海軍としても陸軍の大規模攻勢には反対ですが、増援を送ることには賛成です。そしてロベール憲兵隊大将の言うとおり、【南方軍管区】のみを対象とした交渉は十二分に希望があるかと思います」  大規模攻勢を行うか否か、増援(陸軍)を送るか否かの決定権は陸軍参謀総長にある。憲兵隊や海軍が何を言おうと関係ない。  しかし、それらを禁止する権限を持っている人物が1人いる。それは当然国防軍元帥のジョゼフだ。 「増援を送ることに関しては禁止しない。海軍も憲兵隊も増援に関してはしてくれ。しかし、大規模攻勢に関しては海軍及び憲兵隊からの反対があったとおり、このタイミングで行うには不都合がある。これにについては禁止する。以上だ」  ジョゼフはそう述べた。  こうして、会議は決したのである。  この会議の結果、以下のように動くことになった。  まず、陸軍は予定通り3個師団を増援として送る。  次に海軍は天使軍の動向を警戒し、海軍陸戦隊を乗せた軍艦数隻を【天使領】近くの洋上に待機させ、いつでも上陸作戦を行える体制にする方針になった。  続いて、憲兵隊も機動大隊の2個をミハランの地に送ることにしたのだった。  そして、大規模攻勢は当然保留となったのである。
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