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第132話 各国の情勢⑥
――― プランツ革命政府樹立宣言から12日目 ―――
私たちを乗せる馬車列は時刻がちょうど正午になろうとする頃、【魔王領】の都市ネプッソに到着した。人口5万人程度の都市だ。
この旅で【魔王領】に入ってから、今日にいたるまで、複数の小さな町や村を経由していたものの、都市レベルを経由するのは初めてとなる。
そして、私の計算よりも2日ほど早く到着したのだった。
「ネプッソに到着したか」
「そうみたいだね。ところで、天使が都市にまで入ってきたら面白いよね。ここも魔王軍の都市防衛隊がいるし、ネプッソ市警もあるし。まさか入ってくることはないよね」
ユミがそう言った。
そうだな。もし入って来るとしたらヤバいほどの戦闘力を持っている奴となるだろう。
「戦闘力にもよるだろう。まあ、もし上級天使以上の天使共なら入って来る可能性はあるだろうな」
それにしても、やきにユミの奴はこのネプッソについて詳しいな。
ネプッソ市警はともかく、魔王軍の都市防衛隊という言葉自体、私はユミの今の発言で初めて聞いたくらいだ。
ユミの姉であるディアナあたりが教えたのだろうか?
それとも前にあげた本にでも書いてあったのか……。
「そうだったね。戦闘力次第では都市にまでも入って来るかもしれないよね。でも私はカルロを付けている天使たちは、そこまで戦闘力はないと思うわ。理由はこの前も言った通り、もしそれなりの戦闘力があるなら、とっくのとうに仕掛けてきても良いハズだよ」
確かに前に言われた通り、今回付けている天使たちは下級天使だけかもしれない。
しかし、よくよく考えてみれば可能性はいくらでも言える。例えば私の暗殺が目的ではなく、単に尾行しているだけかもしれないのだ。
そうなってくると、今回付けてきている天使が下級天使だけである可能性を信じることもできなくなってくる。
「カルロさん、今日はここネプッソで一夜を明かすことになっております。ユミも暇つぶしにネプッソの散策でもしてみるのも良いと思うよ」
ディアナがやって来てそう言った。
四天王レミリアとヘンリーは先に魔王の都へ向かっているので、私たちを監視する魔王軍の中では彼女が責任者となる。
「そうだね。お姉ちゃんの言うとおり、私はネプッソの散策でもしようかな」
ユミがそう言って、馬車を降りる。
私もそれ続いた。
「そうだな。私も久しぶりにネプッソを巡るとしよう」
※
――― 同じくプランツ革命政府樹立宣言から12日目 ―――
僕は、プランツ革命政府の臨時代表を務めている。
そして、この仕事はまもなく終わるだろう。
しかし、市民評議会の選挙で僕は当選した。つまりプランツでの政治家としての仕事はまだ終えることができないのだ。よって、尻尾巻いてプランツから逃げることを許してくれない。
「よう。無事当選出来て良かったな」
相棒のレームが、そう言ってきた。
何を言うのか……『逃げられず、残念だったな』の間違いだろう。
「レームさんも当選したようですね。結局、この国で政治家を続けることになりましたよ。ここ最近は、いつも魔王軍あるいは【教会】に捕まって処刑になる夢ばかり見ましてね。嫌になります」
単なる飾りとはいえ、革命政府のトップなのだ。捕まって処刑される可能性は充分ある。だから僕はそればかり考えてしまい、精神が疲弊しきっていた。
「心配するな。お前を悪いようにはしない。ただの飾りで居続けてくれるならな」
相棒のレームがそう言った。
もはや、革命政府は実質、臨時行政委員会委員長の彼を中心に動いている。僕には実権は殆どない。むしろ表向きは幽閉されていることになっている前体制側の王太子ギヨームの方が、事実上発言力は僕より高いだろう。
「わかりました。大人しくしておきますので、どうかよろしくお願いいたします」
と、僕は言う。
本当に悪いようになるのだけは嫌だからだ。
「きちんと身の程を弁えてくれて助かるよ。ところで、俺とお前が当選したのはともかく、全体的な選挙結果についてだが、魔王軍と関与が判明している候補者は全員当選している。魔王軍は、かなり経費をかけたのだろうな。こいつらだけで過半数を超えているよ。それと、【教会】との関与があると判明している候補者も何人か当選している。掃除がしきれていなかったようだ」
やはり、わかっていたことだが相棒のレームと王太子ギヨームは、この選挙で魔王軍側を有利にしようと動いていたのだろう。【教会】やアリバナ王国と関与していた候補者は殆ど彼らの手によって殺されているにも関わらず魔王軍が関与している候補者は皆、生きている。
「魔王軍との交渉に向けて着々と進んでいるわけだね」
「そう言うことだ。計画通りだよ」
と、相棒のレームはそう言う。
「そうか。では計画通りになったとして、用済みになって僕を殺すか? 」
「いや。計画通りになればお前にはしばらく、働いてもらうことになる。殺しはしないよ」
何の保障にもならないが、言質はとった。
気休め程度だが、これで少しは安心できる。
さて、革命政府臨時代表として残る僅かな仕事を1つすませてしまおう。即ち市民評議会招集宣言を記した書面に署名することを。
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