第2話 旅の支度~支度は色々としなくてはなりませんね

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第2話 旅の支度~支度は色々としなくてはなりませんね

 アリバナシティ大聖堂を後にした私たちは、旅道具や武器防具などが数多く揃えられている百貨店へとやって来た。この店は、数少ない百貨店であることから、王都アリバナシティの中でも特に有名な店だ。 「じゃあ、金貨100枚ずつ渡すから、各自で必要なものを揃えてね」  ユミは早速砕けた話し方でそう言って、金貨が入った袋を取り出すと、私を含め3人に金貨を100枚ずつを渡してきた。そして私たちは約一時間ほどを自由時間とし、一旦解散することにしたのである。  と言っても、私はこの百貨店には用はないので別の店へと移動することにした。別の店に向かい、一体何を求めているかと言えば傭兵だ。  理由はシンプルである。  直接私の指示に従ってくれる手足になる頭数が欲しいからだ。それに、魔王軍には妙な慣習もある聞く。だから、それに対する備えのつもりでもある。    そういうわけで、私が今向かっている店は、傭兵団の雇い入れを斡旋している酒場なのである。  冒険者と傭兵はお互いに似たり寄ったりと言った存在ではあるが、少なくとも1つ大きな違いがある。それは傭兵においては冒険者ギルドに加入しなくても傭兵として活動できる点だろう。  とはいえ酒場を介しての契約締結が慣習化されており、実態としてみれば傭兵団ギルドのようなものが形成されつつあるのだ。 「いらっしゃい! 」  私が酒場に入ると、元気な声を出して店主が出迎えた。彼の名はテオドルと言う。煙草の臭いが酒場を充満する中、相変わらず店主は元気な様子だ。    逆に、私は煙草が苦手である。 「おう、カルロじゃないか……」 「傭兵を雇入れたいのだが」  と、私はシンプルに用件だけを言った。 「なるほど。また傭兵団の雇い入れがしたいのか。じゃなきゃ、お前が煙草臭い店にわざわざ来るわけないものな」  店主の言うとおり、私は用が無ければ煙草臭い店には来ない。  その他の理由で訪れるとすれば、喜びに満ちていて気が大きくなっているときくらいだろう。 「そうだ。金貨1万枚の支払いが約されている手形を3枚を渡すから、一応信用できる傭兵団に掛け合ってくれ。もちろん、合計して金貨3万枚相当になるから危険手当等も込みだと伝えてくれよ」  実は私はこの酒場の常連客であり、ここ最近は理由があって何度か傭兵団を雇い入れてた。  傭兵団を雇い入れていた理由は当然、頭数が必要なのだが、命に関わる危険なことをしてきたからである。そこらの一般人を雇ったとして、いざ戦闘になった際に何も出来ず死んでもらっては困るのだ。 「また【教会】の図書館でも荒らすのか? そんなことをしても無駄だろうに。この馬鹿が。賭博に負けてやけくそになっている連中と一緒じゃないか」 「いや、今回は旅のお供が欲しくてな」 「ああ、以前言っていた勇者のお守として【魔王領】へ行くとかいう話だったか……。それで、いつも通りの説明を傭兵団にすりゃ良いんだろ? 」 「ああ。いつも通り頼む」  私はそう言って、酒場の店主に手形を渡したのである。 「おっ? この手形は、グランシス商会が振り出したやつじゃないか。金銭的に信用はできる商会だから支払いはこれで大丈夫だろう。てか西ムーシ商会の手形はもう切らしたのか」  グランシス商会が振り出した手形は【魔王領】でも出回っているくらい、信用力のある商会だ。  一方で、西ムーシ商会もそれなりの規模を誇る商会ではある。 「西ムーシ商会のはもうとっくに使い切ったわ。それと適当に飲み物もよろしく」  私は適当に飲み物を注文して待つことにした。  そして、店主は私に飲み物を出してから別室へと移動したのである。  酒場で飲み物を飲みながら待つこと、およそ20分が経った。  すると、別室から戻ってきた店主が如何にも歴戦の戦士というような恰好をした男を連れてやって来た。  恐らく、この男が傭兵団の団長格の者なのだろう。 「あんたがカルロか。俺は【ファイア傭兵団】という20名からなる傭兵団を率いている団長だ。で、アンタさえ良ければ、さっそく契約を締結したいところだが……どうだ? 」  さっそく契約締結に前向きであるとは。まあ、金貨3万枚分のおかげかもしれないが……。  とはいえ、いざと言うときには命を張って戦ってもらわないと困る。 「そうか。では念のために確認するが、命の危険が伴う可能性についてはご理解してほしいのだが、そのへんは大丈夫か? 」 「おう。元々傭兵は金のために死にに行くようなもんだろ。金貨3万枚もくれるんだ。【魔王領】だって【天使領】だってついて行ってやるぜ! 」  口はどうやら達者のようだ。  そして、まさに目的地は彼が今言った【魔王領】なのだがな。 「あんたらを雇ったとしても、何をさせるかはそこまで具体的に決まっていない。であるから苦しい状況に陥ることや、逆に暇で退屈な時もあるかもしれないので、そこのところも頼むよ」 「なるほど。いざって時の頭数が欲しいわけか? それでも構わん。好きにしてくれ」  よし、こいつの率いる傭兵団にしよう。 「それはどうもありがとう。では貴方の傭兵団に任せよう」 「では、これからよろしくな」  こうして、私は総勢20名からなる【ファイア傭兵団】を雇い入れた。  酒場の主人が立ち合いの下で互いに契約書にサインをし、その後はとりあえずの行動方針を話し合い、私は百貨店へ戻ることにした。  そして百貨店に戻ると、ユミたちはそれぞれお望みの品を買い揃えていた。 「カルロ。どこへ行っていたの? 」  ユミがそう訊ねてきた。 「ああ、ちょっと近くの知り合いに挨拶してきたんだ」  と、私はテキトウにそう返した。 「そうなんだ。ところで今日は王都で一晩過ごして、明日から旅を始めようとマリーアたちと話をしたんだけど、どうかな? 」 「別に構わないよ」  本当はなるべく早く【魔王領】へ向かいたいのだが、まあ1日くらいは良いだろう。 「わかった。じゃあ早速宿屋を見つけよう」  と、ユミが言う。  こうして旅のスタートは明日に持ち越しになったのであった。  そして、その日の夜。皆が寝静まった頃のことである。私もベットで横になっていた。既に睡眠状態に入るか否か、そのような意識になっている。  この状態になっても一応、起きているという認識はできている。何かあれば直ぐに起きなければならないという環境で、長く過ごしていたことがあるからだろうか。 「……」  不意に、ドアが開く音が聞こえたのであった。 「何だ貴様! 」  私は暗闇に向かってそう言った。否、暗闇にはだいぶ目も慣れてきていたのだ。  だから、そこに人影があったのは見えた。もちろんそれが誰であるのかまでは、判らなかったが。 「……」  人影はすっと、消えていった。  部屋から出ていったのだろう。  盗みか暗殺か。  果たして何が目的なのだろうか。前者なら単なる偶然に過ぎないだろう。  しかし後者なら先日も、酒場の入り口付近でそのような事件に遭ったばかりだ。今後もこのようなことが起こるかもしれない。  全く心が休まらないものだ……。
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