第3話 寄り道が早速始まった

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第3話 寄り道が早速始まった

 旅が始まって2日目。  旅の準備を済ませた私たちは、王都アリバナシティにある宿屋で一晩を過ごし、それから王都を発つことになった。目的地はもちろん魔王を討伐するということだから、ただひらすら【魔王領】を目指せばいい。  本来、西ムーシの町の方向へ進むはずなのだが……。  ところが、ユミが突然ロムソン村へ行きたいと言い出したため、何だかんだでその村へ行くことになってしまったのである。  そして面倒なことにロムソン村は、【魔王領】のある方向とは全くの別方向であるのだ。 「ロムソン村は、魔物に度々襲撃を受けているらしいの」 「なるほどな。王宮兵士長を務めている者して、自国の村の惨状を知っていながら無視はできん! 」  ダヴィドは王宮兵士長があるが故に、ユミの提案に賛成し、マリーアはどっちつかずの態度であり、結局、反対したのは私のみであった。  昨日、大金を叩いて雇い入れた傭兵団を後方から付けさせているため、予定外の行動は控えてほしいところだ。万が一にも傭兵団が私を見失ってしまったら面倒だからである。 「ロムソン村までは、ここから歩いて6時間ほどかかるそうですね」  マリーアが、道の端に立ててあった標識を見てそう言った。 「徒歩で6時間もかかるのか。実のところ、王都アリバナシティに住んでいながら、ロムソン村へは一度も行ったことがないからな。まさかこんなにかかるとは知らなかった」  と、ダヴィドが言う。  ロムソン村の村人が近隣の町や王都アリバナシティへ行くことがあっても、王都アリバナシティの市民や、他の町の住人がロムソン村へ行くことは滅多にないのだろう。  そもそも、ロムソン村のみならず【村】となるとあまり外部の人間が行く機会が少ないのだ。人の往来が激しいのであれば、必然的にそこは【町】以上の規模に発展するところ、要は人の往来がほとんど無いがために【村】の規模のままということだ。  明示的な定義はないものの、人口が多ければそこに住む者たちは自然と【町】と名乗るようになる。  王都アリバナシティ付近は、しっかりと整備された道となっており行商人らしき者たちが行きかっていた。そして周囲は辺り一面が綺麗な草原地帯であって、ピクニックでもしたい気分になってくる。  だが、ロムソン村へ向かってしばらく道を歩いていると、次第に舗装がしきれていない道となってきた。道だと言うのに、あちこちに草が生えていて整備されていないのである。  そして前方には獣だろうか?  その獣らしき動物6匹が、道の真ん中で屯していたのである。それも、こちらを向いて待ち伏せしているかのように。 「……あれは毒タヌキじゃないか! 」  私は、その獣らしき生物の正体に気づきそう叫んだ。あれは決して、フレンドになれないケモノなのである。 「皆、気をつけろよ! 」  私は続けてそう言った。  獣らしき生物の正体が毒タヌキと呼ばれる魔物である以上、それ相応の警戒が必要となる。当然に人を襲うのだが、基本的には噛付いてきたり、引っ掻いてくる。  そして人の気分を害するものとして、≪口から胃液を勢いよく吐き出す≫という攻撃をしてくる。毒タヌキの≪毒≫というのは、すなわち奴の胃液から名づけられたものであり、この胃液の匂いを嗅いだだけで徐々に眩暈に襲われて、最終的に気絶してしまうのである。 「あれが毒タヌキなのか。初めてお目にかかる」  ダヴィドがそう言った。  王宮兵士長でもあろう者が、毒タヌキも見たことがないというのか。  隣国の【プランツ王国】では、兵士たちの訓練の一環として森の中に籠り、ただひたすら魔物狩りを行うというのに。  まあ、そのため【プランツ王国】では冒険者ギルドの活動が委縮しているらしいが……。  ところで、毒タヌキは本来なら森の奥地に生息しているような魔物だ。こうして道中で出くわすことは滅多にないはずなのだ。  一体何故、このようなところにいるのだろうか? 「カルロ殿は、毒タヌキと戦ったことがあるのか? 」 「何度かはある。だが、応戦した程度で倒したことはないぞ」  胃液を吐き出されたら、こちらはそれだけで不利となる。一瞬でも蹴散らせて直ぐに逃げた方が良い。  そもそも本来、戦うまでのことはない。 「私は勇者よ! これから魔王を倒すためには経験が必要だよね」  ユミはそう言って、剣を構えて毒タヌキの群れへと突っ込んだのであった。 「ユミさん、止まって! 」  マリーアは制止したものの、それは無意味に終わったのである。
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