48人が本棚に入れています
本棚に追加
第5話 治療! それに続く治療!
「おい、大丈夫か! 」
そう言って、男たちが駆けつけてきた。
3人の男の内、1人は私が知っている人物であった。昨日、雇い入れをした傭兵団の団長だったからである。
と言うことは、残る2人も傭兵団の一員なのだろう。
「ロムソン村に用があってな。ちょうどここを通っていたら、あんたらが魔物と戦っている姿を発見したわけだ」
と、団長が言った。あくまでも私とは他人のふりをしている。だがこれは、私がピンチになったら他人のふりをしつつ何人かで駆けつけてきてほしいと、昨日取り決めていたからである。
「私らもロムソン村へ行こうとしてたら、毒タヌキに遭遇してしまってな……。1人が胃液にやられて気絶してしまったよ」
と、私は3人に説明した。
「そうか。なら後は俺たちに任せて、あんたらは急いで離れた場所まで逃げろ」
「すまない……そうさせてもらうよ」
ユミとマリーアもこれに頷く。そして各自お礼を言って、速やかにこの場を後にした。
尚、ダヴィドはどうしたのかと言うと私が背負っている。当然置いてきたなんてことはない。
それから10分ほど歩き続けて、一休みを兼ねてダヴィドの治療をすることにした。私はダヴィドの体に手を当てて解毒魔法を発動する。
「これで、何とかなったはずだが……。なんだか、急に眠く……」
先程から私は、時間が経つにつれて眠くなってきたのである。疲れのせいだろうか? それもあるかもしれないが、一番の原因は恐らくダヴィドの服に付着した毒タヌキの胃液であろう。うっかりしていた。
「カルロさん。大丈夫ですか! 」
私が地面に座り込んでから、下を向いて俯いているとマリーアが心配したのか声をかけてきた。
「眩暈が酷くてね、たぶん胃液にやられたのだと思う」
私はそう言ってから、まだギリギリ気が保てている内に、自分に体に手を当てて解毒魔法を発動した。
「具合は、大丈夫ですか? 」
「解毒はしたから、その内、眠気も覚めるだろう」
とはいえ、私は疲れているので眠気が覚めないかもしれないが。
「ところでユミの奴は……」
私とマリーアがユミの方を見ると、何とユミは倒れていたのである。
「まさか、ユミさんも!? 」
と、マリーアが驚き言った。
恐らくユミも、毒タヌキの胃液が原因で倒れたのだろう。
仕方がないので、私はユミにも手を当てて解毒魔法を発動させた。
そして、ユミの治療も済ませた後、念のためにマリーアにも解毒魔法による治療を行うことにしたのである。
「念のため、マリーアにも解毒魔法をかけておこう。マリーアもいつ症状に襲われるかわからないしな」
「はい。お願いいたしますね」
私は、マリーアに手を向けて解毒魔法を発動した。
解毒魔法というのは、一瞬で終わるようなものではない。接種した毒が多ければ多いほど、そして毒性が強ければ強いほど、解毒魔法を発動し続けなければならないのだ。
「まあ、ダヴィドは直接胃液をかけられたから直ぐに毒が回って一番早くに倒れたのかもしれないからな。私のこの推測が正しいかはわからんが」
私は解毒魔法を発動しながら、自身の推測をマリーアに話した。
「カルロさんは本当に、攻撃系と回復系の魔法の両方が使いこなせるんですね。すごいですよ」
「別に凄くはないと思うがな。魔法が使える者が少ないからそう感じるだけだろう」
「そう……なのですかね? 」
私の聞いた話では、魔法を使える者は決して多くないと言う(【魔王領】出身者は別)。
そのため、攻撃系又は回復系のいずれかを一定以上使えるのであれば、仮に魔法士の資格を有していなくても、それだけで評価されるらしいのだ。
また、その両方を一定以上使えるのであれば王宮でそれなりの地位に就くこともできると言われている。
だから、私もどこかの王宮に仕官しようかと考えた時期もあったが、諸事情により諦めている。私の場合、身分を巧く偽装しているならともかく、身辺調査で不合格になることになることは見えていた。
「それにしても、何故カルロさんは魔法士の資格を取得なさらなかったのですか? 」
「【パレテナ王国】に住んでいたと言えば、判るか? 深くは言いたくないからな」
【パレテナ王国】では貧しさのあまり、山賊がよく蔓延っていると聞く。
冒険者ギルドや傭兵の斡旋をしている酒場では、【パレテナ王国】出身の山賊の人相書きが貼り付けられたりするのだ。
まあ、私は【パレテナ王国】に住んだことは一度も無いので全くのホラであるわけだがな……。それでも、私が身辺調査を受けた場合には、非常に厄介なことになるであろうことは事実だ。
「なるほど……」
マリーアが、私が誘導するとおりに察したのか、そう言った。
「治療は終わったぞ」
私はマリーアの治療も済ませる。
それから、しばらくしてユミが目を覚ました。
目を覚ましたユミは咄嗟に周囲を見渡す。先ほど毒タヌキと戦っていた場所からは移動したので、少し混乱するかもしれない。
「大丈夫か? 」
と、私はユミに声をかけた。
「うん」
「毒タヌキの胃液にやられたのだ。私も気を失いそうだったし、仕方ない」
また少し経ち、今度はダヴィドが目を覚ましたのである。
「……ここは? まさか毒タヌキの胃液にやられたのか……」
「当りだ」
「そうか。俺のせいだな。みんな、申し訳ない」
ダヴィドは落ち込んでいる様子だ。
恐らくダヴィドが自身の体で毒タヌキを潰したことは記憶に残っているのだろう。だから責任を感じているのかもしれない。
「ともかく、体調のほうはどうだ? もし体調がまだ優れないのであれば、もう少し休んでいこうとおもうが」
「それなら、俺はいつでも移動できるぞ」
ダヴィドはそう言って立ち上がって、付近を歩いて見せた。ふらつく様子はないので、もう体調もある程度は回復したのであろう。ユミもダヴィドに倣って、立ち上がって歩く。
「この調子ならロムソン村まで行けそうだな」
そして私たち4人は、ロムソン村へ向けての移動を再開したのであった。
最初のコメントを投稿しよう!