第7話 刻印の確認

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第7話 刻印の確認

 私は特殊な魔法を使い、猛スピードで移動した。  この魔法は魔力消費や体力消耗が極めて激しいのであまり使いたくないのが、急ぎたいので仕方あるまい。  私にとっては、特に体力消耗がネックだ。  そして、再び毒タヌキと遭遇した現場に戻って来る。 「道の両サイドにテントか……」  と、想定外な光景を見て私はそう呟いた。  テント布と木の枝で作られた、極めて簡易的なテントが並んでいる。強風でも吹いたら一瞬で倒壊しそうで、少なくとも私なら落ち着て眠れそうにない。  どうやら、傭兵団はここを野宿場所に決めたようだ。傭兵団が道中で野宿をするのは判りきっていることだが、まさか毒タヌキと遭遇したこの場所で野宿をしているとは思わなかった。 「まさか、ここで野宿しているとはね」  私がそう言うと、団長が気づいてやって来た。 「お、あんたか。ここまで何をしに戻って来たんだ? 」  わざわざ私1人だけで、こんなところまで戻って来たのだ。団長も私の目的が知りたいのであろう。 「まず、毒タヌキの死骸があるなら、その死骸を確認したい」 「毒タヌキの死骸だと? すまないが、燃やして処分してしまったぞ」  なるほど……。  もう焼却処分されているのなら、刻印の確認はできないな。諦めるとしよう。 「そうか。死骸をいつまでも放置しているほうがおかしいだろうし、仕方ないな」  【ファイア傭兵団】は、あくまでも常識に沿って、やることをやっただけである。 「だがどうして、今さら毒タヌキの死骸を確認しようと思ったんだ? 」 「ちょっと確認したいことがあってね」    話が長くなると思ったので、刻印については伏せることにした。  彼らにも用事があるからだ。 「確認したいこと? まあ良いか」  団長は、まさに疑問に思っているのだろうが、これ以上の追及はしてこなかった。 「それで、【ファイア傭兵団】に頼みたいこともあるんだ」  私が傭兵団に何を頼みたいかと言うと、ロムソン村を襲撃する魔物の討伐である。 「俺たちに頼みたいこと? 」 「ああ。ロムソン村はどうやら、魔物による被害が生じているらしい」 「なるほど。その魔物を討伐したいのか」 「まあそういうことだ。私としては、早いところ【魔王領】まで行きたいのだが、昨日話したユミという勇者と王宮兵士長のダヴィドが村の惨状を放置できないみたいでね」  どうしても私が、【魔王領】まで急ぎたいのは本当のことである。  とは言っても、何も魔王を倒したいというわけではなく、【魔王領】で色々とやらなければならないことがあるのだ。  つまり、私にとってはタイミング悪く【教会】(実際にはあの司祭のせいだが)から、勇者の同行者として任命されてしまったというわけである。唯一幸いだったのは、勇者の使命が魔王討伐であるが故に、目的地が【魔王領】方面ということだろうか。  ところが、その唯一幸いだった点も、ロムソン村でしばらく滞在するとなれば、意味がなくなるわけだ。 「それで、俺たちに任せるようと考えたわけだな? 」 「ああ。だが具体的な状況は一切知らない。だからほぼ全員が、ロムソン村で滞在してもらうことになるだろう」  例えば、実は大規模な魔物の群れがロムソン村の近くにいたとなれば、少数では荷が重いだろう。  そのようなことを想定した場合、1人でも多くロムソン村に滞在してもらった方が良い。 「あんたからは大金をもらっているから、喜んで引き受けよう。だが、あんたに付いて行く頭数は何人か必要だろ? 護衛としても、そして我々本隊との連絡手段としてもな」  確かに、団長に言うとおりか。  私も彼らも、【魔王領】では実用化されている魔法電話というものを持っていないので、連絡のつきようがない。  そうなると人が直接移動して連絡するほかないだろう。まあ、この方法だと私たちの旅が進めば進むほど、連絡役の負担は大きくなってしまうが……。 「そうだな。では6人ほど頼もうか」  私は、連絡役と護衛役として6人ほど頼んだ。護衛2人に連絡役4人という計算である。  何かイレギュラーが起これば破綻しそうな方式ではあるが、仕方あるまい。これ以上は人員を割くわけないはいかないからな。  本当なら、ロムソン村に被害をもたらす魔物たちを討伐するふりだけをさせて、直ぐに傭兵たちを引き揚げさせることもできる。  そのほか、ロムソン村に2~3人だけ滞在させて、後は放置するという考えも浮かんだ。    しかし、それは私の倫理感が許さなかったのである。 「よしわかった。6人をあんたに付ける」  ということで、話はまとまった。  それからは、細かい段取りなどを決めていく。  また、傭兵団の面々にはなるべく、ユミ、マリーア、ダヴィドの3人には顔を見られないようにロムソン村に来てもらうように念を押した。  既に団長を含めた3人は、顔を覚えられてしまっているかもしれないが、他の傭兵団員たちの顔さえも覚えられてしまっては色々と困るのだ。  例えば今後も、偶然を装った救援をお願いする事態になった場合に、私と傭兵団はあくまで他人であるという設定に、無理が生じるからである。流石に偶然が重なれば、ユミたちも不審に思うだろうからな。  また、傭兵団をずっとロムソン村に滞在させるとあっては雇った意味がない。そのため最大で3日間滞在させることにした。その期間を過ぎ次第、傭兵団は結果の如何に関わらず西ムーシの町へ向かわせるためだ。  これが、私の倫理観との妥協である。
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